有人火星探査、“模擬実験”で実現

2011.02.15
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模擬火星旅行実験「Mars500」の宇宙飛行士、ディエゴ・ウービナ(Diego Urbina)氏とアレクサンダー・スモレフスキー(Alexandr Smoleevskiy)氏が、ついに“火星”の土を踏んだ(2月14日撮影)。

Image courtesy ESA/IPMB
 2011年2月14日、数カ月のミッションを経て3人の宇宙飛行士がついに火星に降り立った。ただし、砂だらけで暗い火星環境を忠実に再現した“シミュレーション”施設がその舞台だ。 実際の火星往復ミッションは、短期型でも1年半ほどはかかる。有人飛行を想定した模擬火星旅行実験「Mars500」は、宇宙飛行士たちの健康と精神に現れる影響分析を目的としている。

 クルーの内訳はロシア人3人とフランス人、イタリア人、中国人各1人の計6名。2010年6月のプロジェクト開始以来、モスクワの研究所内に設置された550立方メートルの“擬似宇宙船”で隔離生活を送っている。メンテナンス作業や各種実験に従事するほか、音楽ゲームやガルシア・マルケスの全集などで余暇の過ごし方も工夫しているという。6名はボランティアで、宇宙に滞在した経験がないメンバーも含まれているが、いずれも工学や医薬などの専門家だ。

 プロジェクト・リーダーとの無線連絡は、火星と地球の時間差を忠実に再現するため遅延を組み込んでいる。病人が出たら医師担当のメンバーが手当てし、食事は乾燥食のみだ。

 プロジェクトの開始以来、研究者たちは、体内バクテリアから夜間の呼吸状態にいたるまで、“擬似宇宙飛行士”たちの健康や精神に関するリモート分析を進めている。いまや250日以上に及ぶ詳細な調査が終わり、今回の新たなステージに入ったというわけだ。

 宇宙船がシミュレーション上の火星軌道に乗ったのは2月1日。その後3人の飛行士が着陸船を模した別区画に移動し、12日に無事“着陸”を果たした。そして14日、着陸船のハッチが開き、3人は船外に出て火星の砂を踏んだのである。火星の過酷な環境を再現した一室は、NASAの火星探査車スピリットの着陸地点、グセフ・クレーターを模している。

 今後2週間で3人は土壌サンプルを採取し、火星の磁場分析用の磁気探知機を設置する。「また、国旗掲揚も重要な任務だ」と、プロジェクトを統括するロシア医学生物学研究所(IBMP)の広報担当者オレグ・ボロシン氏は語る。

「軌道上に残る3人は、仮想の探査機ロボットを操作して火星の分析を進める。コンピューター・ゲームの進化版に近い」と、共同でプロジェクトを率いる欧州宇宙機関(ESA)のクリステル・フォーグレサング氏は説明する。

 シミュレーションといえども、宇宙船内の無重力状態までは再現できない。そこで人間の体液が上半身に移動する無重力の環境を想定、着陸前の3人は頭を下にして眠っていた。急に重力の影響下に変化した場合に生じる、人体への影響を分析するためだ。ただし、火星の重力は地球の3分の1程度である。

 火星環境を再現した部屋でも、重力や天候の条件は実際とはかなり違う。船外活動を行う飛行士たちは、通常の3分1前後の重さの宇宙服を着用し体感している。

 ESAの元宇宙飛行士でもあるフォーグレサング氏によると、無重力で数カ月過ごした後で急に重力がかかると、人体はなかなか適応できないという。Mars500ミッションでは重力の変化が起こりえないが、可能な範囲で再現を試みた。「これは重要な意味を持つ。地球にいれば誰かが手を貸してくれるが、火星では誰も助けてくれない」からだ。

 船外活動は22日には終了し、飛行士たちは土壌サンプルを持ち帰ることになっている。仮想の着陸船も軌道上の母船に戻り、宇宙の6人にはおよそ200日間の缶詰生活が待っている。

「飛行士たちはよく持ちこたえてくれている。閉鎖環境でのメンバー同士の対立も取り越し苦労だった」とフォーグレサング氏は評価する。しかし火星着陸というミッションのクライマックスが終わった後は、飛行士たちの忍耐力が再度試されることになるだろう。

Image courtesy ESA/IPMB

文=Rachel Kaufman

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