約320万年前の中足骨は、アファール猿人の化石が出土しているエチオピア北東部ハダールの地層から発掘された。足の甲に5本ある骨の1つで、足首やかかとを形成する足根骨と指の骨を繋いでいる。
骨のサイズと形状から、アファール猿人の足は現生人類と同様に頑丈で、アーチ型の土踏まずを持っていたことがわかる。この2つの特徴は、地面を蹴り出す強さと二足歩行の衝撃を和らげる役割も持つ。
類人猿の足の親指で物をつかむ能力は樹上生活に都合が良い。一方、アファール猿人は二足歩行の能力があり、もっぱら地上で生活していたと他の化石などを基に推測されていた。
今回の発見で、ルーシーは樹上から地上生活に完全に移行していたと裏付けられた。
類人猿の足は中央が柔軟に曲がり、木登りに適している。アファール猿人にも見られるヒトの強靭なアーチ形状の甲は、二足歩行で効率的に前進できるような構造だと、今回の研究を率いたミズーリ大学の人類学者キャロル・ワード氏は説明する。
アーチ構造は吸収材の役割を果たし、直立二足歩行の着地衝撃を和らげている。 現代でも、土踏まずのアーチが未発達な偏平足の場合、全身の関節に大きな負担がかかってしまう。アファール猿人の足は樹上生活の能力と引き換えに、二足歩行のデメリットに対応する構造に進化したとみられる。
「私たちよりも強靭だったことは確かだが、その分、木登りは下手だったかもしれない。現生人類が約200万年前に出現するはるか昔に、ルーシーは地上で生活していたようだ」とワード氏は話している。
また移動の様子も解明されつつある。「物をつかむ非常に便利な能力を捨てて、二足歩行に適した足を獲得している。生き残りと繁殖において、効率的な地上生活がどれほど重要だったかを物語っている。地上をスムーズに歩き始めた彼らは森林から抜け出し、食料を調達したり、移住先を求めて移動したに違いない」とワード氏は説明する。
この研究は「Science」誌に2月11日付けで掲載されている。
Diagram courtesy Kimberly A. Congdon, Carol Ward, and Elizabeth Harman