イカを凶暴にする卵嚢のフェロモン

2011.02.14
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卵嚢付近を泳ぐオスのアメリカケンサキイカ。

Photograph courtesy Roger Hanlon.
 女一人を巡って男たちはなぜ死闘を繰り広げるのだろうか。少なくともイカの世界では、生化学的な要因で説明できるという。 新たな研究によると、産み落とされて間もない卵にオスのアメリカケンサキイカが触れると、それまでの穏やかな泳ぎから一転、極めて凶暴になりお互いを攻撃し始めるという。メスが卵嚢(らんのう)を産み始めた場所でオスの生態を観察していた研究者が、まず異変に気づいた。

 米国海洋大気庁(NOAA)によると、卵嚢にはそれぞれ150~200個の卵が入っており、メスは最大数週間にわたって20~30個の卵嚢を産む。その期間中にメスは複数のオスと交尾する。

 海底にある卵嚢を見つけて接近し、自らの腕を巻きつけるオスの振る舞いに科学者らは釘付けになったという。「あれは何とも奇妙な行動だった」とアメリカ、マサチューセッツ州のウッズホール海洋生物学研究所の研究共著者ロジャー・ハンロン氏は話す。同氏のチームはその後、卵嚢に接触したオスがたちまち攻撃的になり、お互いを激しく叩き、取っ組み合う様子を目撃した。

 詳細なデータを取るため、ハンロン氏らはオスと卵嚢のペア57組を用意し、実験室で行動を入念に観察した。すると、メスがいないにも関わらず、卵嚢に触れた途端にオスはお互いを攻撃し合ったという。

 凶暴化の原因をより正確に特定するため、チームは卵嚢の表面から化学成分を抽出し分析した。ハンロン氏らは数種類のタンパク質の存在を確認すると、その1つがイカに攻撃性を引き起こすフェロモンのような働きをしているとにらんだ。

 そこで今度は、卵を入れたガラス容器の外側を各タンパク質でコーティングし、オスのアメリカケンサキイカのいる水槽に投入。卵が視界に入ったオスが接近し、ガラス容器に触れた後の反応を観察した。実験の結果、前立腺特異抗原の一種、ベータ・ミクロセミノプロテインに接触したオスが、たちまち凶暴化することが判明した。

 ハンロン氏らは、このフェロモンはオスの闘争心を駆り立てると同時に、多産なメスが交尾相手にふさわしい最も強いオスを選ぶうえでも役立っていると考えている。「ヒトの体内にも同様な成分があるかはよくわからない」とハンロン氏は述べる。「しかし文献から、前立腺特異抗原が哺乳類の精液に含まれることはわかった。ただ残念なことに機能はまったく解明されていないようだ。私たちの発見がその方面の研究の刺激になれば良いのだが」。

 この研究結果は、2月10日発行の「Current Biology」誌に掲載されている。

Photograph courtesy Roger Hanlon.

文=Matt Kaplan

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