ヒョウの上に立つツタンカーメン王の像や王族のミイラ2体など多数の収蔵品が損傷を受けたが、盗難はなんとか免れた。ミイラ2体は襲撃時に頭部が取れたという。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のエジプト学者ウィレク・ウェンドリッチ(Willeke Wendrich)氏は、「破損した遺物の多くは木材を金箔で覆ったものなので、金が狙われたのだろう。すべての部分が残っていても修復は大変な作業で、時間も費用もかかる。非常にもろい木材が使われているからだ」とナショナルジオグラフィック ニュースに語った。
略奪者は29日、警察当局とカイロ市民によって捕らえられた。報道によると同日、市民たちは略奪者の侵入を防ぐため、手と手をつないで博物館を取り囲んだという。
エジプト全土に略奪のニュースが広まる中、地域の史跡を守るために団結するエジプト市民も増えている。
アレクサンドリアでは、地元の若者たちが自警団を組織し、交通整理や治安維持に当たり、新アレクサンドリア図書館など公共施設の警備も始めた。
アメリカ、テネシー州にあるメンフィス大学のエジプト学者スザンヌ・オンスティン(Suzanne Onstine)氏は、かつて古代都市テーベのあったルクソールから次のように伝えている。「私はとても勇気づけられた。彼らエジプト市民は、政府の夜間外出禁止令を無視しても、地域の宝を守るために団結している。警察署から銃を盗んで史跡に侵入しようとする者がいたが、地元の人たちがバリケードを築いて阻止したそうだ」。
UCLAのウィレク氏は、「エジプトを旅したことがあれば、市民の行動にも驚かないだろう。歴史に対する社会的認識が高く、遺跡を訪れる観光ツアーが国の重要な収入源と誰もがわかっている」と話す。
大部分の地域でインターネットと携帯電話のアクセス遮断が続いており、略奪被害の全体像を把握するには数日から数週間はかかるだろう。だが、国外にいるエジプト学者たちはそれほど長く待てないようだ。
アラバマ大学バーミングハム校のエジプト学者サラ・パーカク(Sarah Parcak)氏は、Facebookで「Restore + Save the Egyptian Museum!(エジプト考古学博物館を修復、保護しよう!)」というグループを作成した。パーカク氏と仲間たちが情報収集し、事実と噂を区別するためのフォーラムとなっている。「現地で実際に目撃した人を探しているが、なかなか難しい」とパーカク氏は言う。
このFacebookグループでは、エジプト軍の史跡警備を支援しようと、何とも“遠回り”な方法をひねり出した。
仕組みはこんな具合だ。まず、エジプトにいる研究者が略奪に遭ったと伝えられた史跡の名前を収集する。そして、固定電話からインターネットが使える国の仲間に電話をかける。その仲間がGoogle Earthなどのオンライン・サービスで史跡のGPS座標を特定し、エジプトの研究者に情報を返信。研究者がエジプト軍に伝えるという。
「エジプト軍には、“略奪に遭っているのが昔の統治者の墓だと断定できるのか?”と言われたが、緯度と経度がわかればはっきりするはずだ」とパーカク氏は話している。
Photograph by Tara Todras-Whitehill, AP