地球から宇宙に飛び出す高エネルギーの電子と陽電子(想像図)。

Illustration courtesy J. Dwyer/FIT, NASA
 雷によって反物質ビームが宇宙に向けて照射されることがあるという研究が発表された。このビームは非常に強く、何千キロも離れた人工衛星で検出できるという。 通常の物質はほとんどが電子や陽子などの亜原子粒子でできている。これに対し反物質は、質量とスピン(角動運量)は通常物質と同じだが電荷と磁性が逆の粒子から成る。

 このほどNASAのフェルミ・ガンマ線天文衛星に搭載された放射線検出器が、電子の反物質である陽電子の明らかな痕跡をおよそ30ミリ秒間にわたって検出した。分析の結果、この高密度の放射線バーストの発生源は、エジプト上空を通過中だったフェルミから5000キロ以上離れたナミビア上空の稲妻だったことがわかった。

「これは、地球のメカニズムに関する根本的な新発見だ」と、デューク大学で雷を研究するスティーブン・カマー氏は話す。「どこかの惑星に反物質を作り出す雷があって宇宙に反物質を発射しているなどと言えばまるでSFのようだが、それが地球で起きているとは本当に驚きだ」。同氏は今回の研究には参加していない。

 雷は最もエネルギーの高い光の形態であるガンマ線を発生させることがあり、ガンマ線は対生成と呼ばれるプロセスを通じて陽電子を作り出すことがあることは以前から知られていた。

 ワシントン州シアトルで開催中のアメリカ天文学会の会合で1月10日、フロリダ工科大学で雷を研究するジョセフ・ドゥワイヤー氏が語ったところによると、ある大きさのエネルギーを持ったガンマ線が空気中の原子と反応すると、ガンマ線のエネルギーが、物質すなわち電子1個と陽電子1個に変換されるという。

 強力なガンマ線バーストで陽電子が数個できただけなら誰も驚かなかっただろうとドゥワイヤー氏は話す。しかし、フェルミが検知した稲妻は約100兆個の陽電子を作り出したと見られ、「これは多い」と同氏も驚く。

 研究を率いたアラバマ大学ハンツビル校のマイケル・ブリッグス氏は、稲妻が作り出した陽電子が地球の磁場の作用で集まって強いビームとなったのではないかと推測する。このビームがナミビアの雷からフェルミまで陽電子を運んだ。フェルミに到達した数ミリ秒後、ビームは地球の磁場のさらに北方の部分に当たったという。これにより、陽電子の一部がこだまのように跳ね返って同じ経路を引き返し、2回目のビームとしてフェルミに到達した。

 地球は太陽からの放射の直撃を常時受けているだけでなく、大規模な超新星爆発など、距離は遠いが強烈な現象によって発生する宇宙線を浴び続けている。

 フェルミが検出したビームに含まれる陽電子の量から考えて、今回の雷は、宇宙にあるその他の発生源から地球の大気に到達する放射線をすべて合わせた量よりも多い放射線を、陽電子やガンマ線の形で短時間に作り出したことになるとドゥワイヤー氏は指摘する。

 しかし同氏は、雷による放射線が航空機などに危険をもたらす可能性は極めて低いとしている。

 デューク大学のカマー氏によると、なぜごく一部の雷だけがガンマ線を発生させるのかは明らかになっていない。同氏は「稲妻の仕組みについての詳細はわかっていない」が、陽電子の生成が発見されたことは「非常に重要な手掛かりとなる」と述べている。

 この研究は「Geophysical Research Letters」誌に近日中に掲載の予定である。

Illustration courtesy J. Dwyer/FIT, NASA

文=Richard A. Lovett in Seattle, Washington