ビッグバン以前の宇宙の存在に新説

2010.12.28
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宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のモデル。円形の模様が見て取れる。

Diagram courtesy Amir Hajian
 目に見えないが、宇宙にはリング状のパターンがある。これはビッグバン以前に宇宙が存在した痕跡だと主張する研究結果が発表され、議論を呼んでいる。もしこの理論が正しければ、宇宙は絶え間なく再生しており、現在の宇宙はその“最新版”にすぎない可能性がある。その証拠が初めて示されたというのが今回の主張だ。 宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を新たに分析した結果、リング状のパターンが発見された。CMBはビッグバンの名残で、現在は宇宙の全域に広がっている。リングの多くはまるで波紋のように、入れ子になっている。その内部は、CMBのほかの部分と比べ温度がより一定である。

 イギリス、オックスフォード大学のロジャー・ペンローズ氏とアルメニアにあるエレバン物理研究所のバヘ・グルザディアン(Vahe Gurzadyan)氏によると、ビッグバン以前の宇宙でブラックホール同士が衝突し、リングが生まれた可能性があるという。

 2つのブラックホールが衝突すると、重力波と呼ぶエネルギーの波動が発生すると考えられている。ブラックホールの質量が大きいほど、波の数は増え、強力になる。重力波は時空の構造をゆがめる。ペンローズ氏とグルザディアン氏によれば、その痕跡としてリング状の模様を残す可能性があるという。

 天体物理学者の間からは異論も出ている。

 カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学のジェームズ・ジビン(James Zibin)氏は、「さまざまな変遷を経ても、波紋が残りつづけるというのは奇妙に感じる。ほかにも細部の甘い点がいくつも見られる」と指摘する。

 ペンローズ氏は数年前から、宇宙の循環モデルを温めてきた。その理論によれば、現在の宇宙を生んだビッグバンは前例のない現象ではない。少なくともそれ以前に1度は発生し、現在とは異なる宇宙を生み出した。その前にも数え切れないほどの宇宙が存在した可能性があるという。

 ペンローズ氏は宇宙の1周期を「イーオン(aeon)」と呼んでいる。1イーオンは想像を絶するほど長く、現在の宇宙の年齢137億年をはるかに凌ぐという。イーオンはビッグバンとともに始まる。そして、均質で希薄な粒子の海だった生まれたての宇宙が、銀河や恒星、惑星、生命といった複雑な構造へと進化していく。その間、おそらく謎めいた暗黒エネルギーによって宇宙は加速度的に膨張する。暗黒エネルギーは現在の宇宙でも時空を膨張させている。

 ペンローズ氏の理論によると宇宙のすべての物質は、天の川銀河をはじめとする大銀河の中心に潜む超大質量ブラックホールに吸い込まれる運命にある。超大質量ブラックホールは物質を吸い込むごとに成長し、衝突による合体でさらに巨大化する。理論では、この衝突によって発生する重力波がCMBのリングを生み出すという。

 CMBのリングの存在に関しては、反対する者はない。ペンローズ氏らの研究に反論する論文を書いたブリティッシュ・コロンビア大学のジビン氏も、「リングの存在については支持する」と述べる。「われわれが異議を唱えているのは、リングの意味の解釈だ」。

 ペンローズ氏の循環モデルには、「インフレーション」と呼ぶプロセスが含まれていない。インフレーション理論によれば、初期宇宙は急激な膨張を経て、現在の大きさ、形を手に入れたという。インフレーションは、ビッグバン理論が持つ多くの問題を解決する。その中には、CMBの研究によって浮上した問題も含まれている。

 しかし、ペンローズ氏は、「現在の宇宙が生まれる前に別の宇宙が存在し、やはり加速度的に膨張したのだとしたら、インフレーションは必要ない」と主張する。

「前のイーオンで宇宙は加速度的に膨張し、その結果、均質になった。これがインフレーションの代わりになると考えているようだ」とジビン氏は説明した。

 今回の研究成果は、コーネル大学図書館が運営するWebサイト「arXiv.org」で2010年12月に公開された。

Diagram courtesy Amir Hajian

文=Ker Than

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