土星探査機カッシーニがとらえた土星の衛星レア(2009年撮影)。

Image courtesy NASA
 土星の2番目に大きい衛星レアで酸素の大気が発見された。しかし人類の移住先となる見込みは薄いという。 まず、この直径1500キロの衛星は地球から15億キロ以上も離れている。加えて、平均表面温度が摂氏マイナス180度という氷の世界でもあるのだ。厚さ100キロ未満という新発見の酸素層は濃度が極めて薄いという問題もある。地球の気温や気圧の下では、レアのすべての大気を集めても中規模のビル1棟を満たす程度に過ぎない。

 果たして移住は無理そうだが、今後も酸素のある天体の発見に期待が持てるようになった。レアの平均公転半径は52万7000キロで、その軌道は土星の磁気圏の中にある。周囲を取り巻く酸素の大気は、磁気圏からの放射線が表面の水氷を化学分解して維持されているようだ。

 木星の氷の衛星エウロパとガニメデにも希薄な酸素が存在するが、やはり同様のプロセスが働いている。この事実は、1995年にハッブル宇宙望遠鏡とNASAの宇宙探査機ガリレオの観測結果で確認された。

「氷で覆われている衛星には酸素の大気が割と普通に存在するのかもしれない。放射線分解と大気保持のための十分な質量が条件だが」と、アメリカ、テキサス州のサウスウェスト研究所に在籍する研究責任者ベン・テオリス(Ben Teolis)氏は話す。

 宇宙のどこでどのように酸素が存在しているのか確認できれば、今後のロボット・有人ミッションを計画する上で参考になる。2004年から土星系を周回観測しているNASAの探査機カッシーニは、2010年3月にレアへのフライバイ(接近通過)を実施し、周囲を取り巻く酸素の大気を発見した。

 観測データの分析により、表面を覆う氷の中で水分子(H2O)が高エネルギーイオンによって分解されている事実が確認されたのである。放射線分解と呼ぶこのプロセスにより、酸素分子(O2)が形成されるという。酸素は表面の氷から噴き出し、衛星の重力で周囲に引き留められて、大気を形成している。

 前出のテオリス氏は、「例えるなら炭酸飲料に溶け込んだ二酸化炭素だろう。あの炭酸ガスは冷却や加圧によって液体に溶け込ませている。レアの酸素の場合、はるかに低温の凍てつく氷の中に閉じ込められている」と解説する。

 研究チームによると、レアの表面では1秒あたり約130グラムの酸素が発生しているという。しかし130グラムの酸素は、地球の気圧や通常の室内温度の下では、0.1立方メートルを満たす程度に過ぎない。つまり地球環境では、レアの大気を全部集めても、1辺22メートル程度の立方体に収まってしまうことになる。

 カッシーニの観測データを見る限り、レアの大気には二酸化炭素も含まれているようだ。事実なら表面に炭素が存在することになる。酸素と同時に炭素も存在するとなれば、氷の衛星で「生命の発見」を期待できるかもしれない。木星の衛星エウロパなどは、固い氷層の下に液体の海も広がっていると考えられている。

 カリフォルニア州パサデナにあるNASAジェット推進研究所(JPL)の研究員ロバート・カールソン氏は、第三者の立場で次のような見解を示している。「氷の衛星には微量とはいえ測定できる程度のガスが存在する。エネルギーによる反応プロセスはどんなところでも起こるんだね。酸素があるなら酸化反応が起きていると考えられ、もし相手が炭素ならアルコールや有機酸の合成も不可能ではない」。

 そして同氏はこうも付け加えた。「酸素のような酸化剤が氷層下の海に沈み込むとどうなる? そこに生命体がいれば、立派なエネルギー源になるんだ」。

 この研究成果は、「Science」誌オンライン版に11月25日付けで掲載されている。

Image courtesy NASA

文=Andrew Fazekas