地球磁気圏の影響で満月が帯電

2010.11.19
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
アポロ11号のミッションで、月着陸船の脚部のそばに立つバズ・オルドリン宇宙飛行士。

Photograph courtesy NASA
 日本の月周回衛星「かぐや」の観測結果から、月は満月のとき地球の磁場の“尾”を通過するため、表面付近に強力な電場を形成することがわかった。 地球の磁場は、「磁気圏」と呼ぶ球状の防御壁を生み出している。磁気圏は地球全体を包み込み、太陽から常に放出される荷電粒子やプラズマの激しい流れ「太陽風」から私たちを守っている。

 地球の磁気圏は太陽風に押されるため、丸い球が少し伸びた形になり、「磁気圏尾部」という尾のような部分ができる。この尾は、常に太陽の反対側を向いており、月の軌道を越えるほどの長さがある。

 月が満月になるのは、地球から見て太陽の反対側に来るとき、すなわち、太陽・地球・月の順に並ぶときである。したがって、満月の時には地球の磁気圏尾部の範囲内に月が位置することになる。

 電子データを用いた新たな解析法によって、月周辺に強い電場が存在することを明らかにしたのは、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた月周回衛星「かぐや(SELENE)」のチームである。2007年に打ち上げられた「かぐや」は、月面上空わずか100キロを20カ月にわたり周回し、月の表面を初めて高解像度映像に収めた。使命を終えた「かぐや」は2009年6月、予定通り月面に向かって制御落下していった。

「かぐや」の撮影装置や観測装置から送られたデータは、現在も解析が続けられている。月磁場・プラズマ観測装置(MAP)のデータには、満月時に比較的高エネルギーの電子が磁力線の周りを旋回しながら月の表面に吸収されていることが記録されていた。

「月周辺の強力な電場は、地球磁気圏のプラズマシートと呼ぶ領域を通過する際に観測される」とチームはレポートしている。プラズマシートは、地球の磁気圏尾部の中間(赤道面)付近に形成される領域で、厚さは数千から数万キロといわれている。

 月は全球を覆う自分自身の磁場を持っていないため、プラズマシートを通過するとき、内部に閉じ込められ動き回っている電子やイオンに表面がさらされた状態となる。

 本研究に取り組んでいる、京都大学大学院の修士課程に在籍する原田裕己氏は次のように話す。「月面周囲に比較的強力な電場ができるのは、月が地球の磁気圏内部に位置するときである。ただし、この電場の発生原因について結論は出ていない。地球の磁気圏尾部のプラズマや磁場の性質が関係しているはずで、月と周囲のプラズマの相互作用もあるだろう」。

 強力に帯電した月の表面は、将来の無人・有人探査にとって危険ではないだろうか?

 原田氏は、「深刻なダメージを負う可能性がある」と認めた。静電気は月面に存在する微細な“ちり”を大量に飛ばす可能性があるため、デリケートなレンズや電子機器が損傷する恐れがある。また、静電気が蓄積すると、予想外の放電につながることもあり得る。

 カリフォルニア大学バークレー校のプラズマ物理学者ジャスパー・ハレカス氏は次のように述べる。「アポロ計画で月面に降り立った際には、偶然にもプラズマ環境が非常におとなしいタイミングだったので比較的無事に済んだ。しかし、それでも“ちり”には大いに悩まされた。激しい太陽嵐が発生したときや、今回の研究対象となっているプラズマシートの通過時であれば、まったく様相が異なるはずだ。電子機器の損傷をはじめとして、さまざまな問題が生じるだろう」。

 ただしハレカス氏は、「この研究が月面探査にどう影響するか私にはわからない」と話す。「再び月に行って確かめてみる他ないだろう」。

 今回の研究成果は、10月1日発行の「Geophysical Research Letters」誌に掲載されている。

Photograph courtesy NASA

文=Andrew Fazekas

  • このエントリーをはてなブックマークに追加