交配プロセスの効率が優れているキリギリスは、生殖の進化の研究に適しているという。例えばオスからメスへの精子の受け渡しが“小袋”で行われるため、採精が容易で都合が良い。「哺乳類の場合は、コンドームのような袋を用意しないと射精量を測定できない」とバヘド氏は話す。
また同様に、メスもオスの精子袋を個別の“ポーチ”に保管するため、それを数えれば生涯の交尾回数を簡単に確認できる。
結果はチームの予想通りで、メスの交尾回数が最も多い種はオスの睾丸も最大だった。しかし驚くことに、キリギリス21種の間では、睾丸が大きいほど射精量が減少する傾向も確認された。「哺乳類など他の種は逆で、大きい睾丸の持ち主は1回の射精量も多くなるのが普通だ。その方が受精の確率が上がるからね」とバヘド氏は説明する。
メスが雑婚する社会では、大きさが精子の貯蔵量と比例して、交尾回数の増加の方に役立っているのかもしれない。実際、このキリギリスのメスは約2カ月間の生涯に平均23回の交尾を行う。
バヘド氏は、「それが妥当な説明だとしたら、脊椎動物についても再考が必要になるかもしれない。普通は逆だからね」と語る。
さらに同氏は、「昆虫は地球に生息する主要な生物グループの1つだ。しかし科学者は脊椎動物を中心に考えがちで、その研究から導き出された結論をすべての生物に当てはめようとする」と科学界の問題点も指摘する。
バヘド氏は次に、キリギリスのオスがメスに挿入するペニスのような固い器官を研究対象に考えている。このほとんど未解明の器官はトゲがあることも多い。メスを刺激するためか、逃がさないためか、あるいはその両方の役割があると考えられている。
昆虫にも得手不得手があるらしく、睾丸の大きさでチャンピオンになったキリギリスも、この分野では際立つところがない。複数のトゲ付き“ペニス”があるわけでもなく、特に変わった点は見当たらないようだ。
この研究成果は、「Biology Letters」誌オンライン版に11月10日付けで掲載されている。
Photograph courtesy Richard Richards, University of Derby