アメリカ、「排出権取引」のゆくえ

2010.11.05
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アメリカ、ルイジアナ州にあるバレロ社の製油所。アメリカでは、「キャップアンドトレード方式」による二酸化炭素削減の全国的な取り組みが試験的に行われたが、大規模排出源である多数の工場がその枠組みから外れている。バレロ社は、カリフォルニア州独自の地球温暖化対策プログラムの一時凍結を主張する住民投票事項を提出したが否決された。

Photograph by Shannon Stapleton, Reuters
 アメリカでは11月2日に投票が行われた中間選挙に先立って、シカゴ気候取引所(CCX)がこれまで試験的に導入していた「キャップアンドトレード方式」を今年いっぱいで取り止める見通しとなった。CCXは、金融先物取引の生みの親として知られる経済学者のリチャード・サンダー氏が2003年に創設した温室効果ガス排出枠の取引市場である。CCXに参加している企業や団体はその時点で削減目標がなくなるが、環境問題に関して政策的な取り組みが行われる見通しが立てば、削減に向けて引き続き努力していくことで意見は一致している。 今回の中間選挙では、カリフォルニア州で地球温暖化対策プログラムの一時凍結を主張する住民投票事項が否決されるなど、環境問題対策の推進派にとっては明るいニュースもあった。しかし、連邦議会の下院では共和党が過半数を占める結果となり、民主党が進めてきた環境問題関連法案の可決は事実上困難になった。

 それぞれの企業や団体に温室効果ガス排出量の上限を割り当て、実際の排出量がそれを下回った場合は、その分の排出枠を他の企業や団体に販売できるという仕組みを「キャップアンドトレード方式」と言う。旧来のような連邦政府によるトップダウンでの規制よりも低コストで、市場への適合性も高いとされ、政治的な目標になる以前から多くの企業や環境団体がこぞって注目していた。この魅力的なキャップアンドトレード方式を試験的に導入したのがCCXである。

 参加はそれぞれの企業や団体の自主性に委ねられるが、参加する場合は温室効果ガスの排出削減について法的拘束力のある契約を結ばなければならない。そして、目標を上回る排出削減を達成できた場合には、達成していない企業や団体に対して余剰の排出枠を販売することができる。現在CCXには、電力会社やメーカー、地方公共団体、大学など450の企業や団体が参加している。フォード、デュポン、モトローラ、インターナショナルペーパー、ハネウェルなど大企業も名を連ねる。

 CCXの試算によると、このプログラムによって2003年以降に削減された二酸化炭素はおよそ7億トンに上る。これは、自動車1億4000万台が1年間に排出する二酸化炭素量に相当する。このうち、事業活動に伴う排出削減量が全体の88%を占めている。残りの12%は植樹などのいわゆるカーボンオフセット活動の成果である。

 CCXは、自主的な温室効果ガス排出削減を模索している企業や団体を支援できるよう、今後もカーボンオフセット活動への登録事業は継続することにしている。また、エネルギー・排出量取引市場関連情報サービス会社ポイントカーボンのエミリー・マッツァクラティ氏によると、CCXの子会社シカゴ気候先物取引所(CCFE)では、今後も温室効果ガスの排出枠取引が行われる見通しだという。

 近年アナリストの間ではアメリカ西部やカナダで排出権取引の地域市場が形成されつつあると考えられており、ポイントカーボン社はCCFEがそうした地域市場の一翼を担う存在になると予測している。カリフォルニア州では中間選挙にあわせて、州が策定した市場主導による排出削減プログラムの賛否を問う住民投票が行われ、賛成派が多数を占めたからだ。マッツァクラティ氏は、カリフォルニア州のこうした動向に触発されて市場に参加する州が他にも現れるのではないかと話す。その流れは、ブリティッシュ・コロンビア州、オンタリオ州、ケベック州などカナダにまで波及する可能性もあるという。

 ただカリフォルニア州では、このプログラムに相反する「住民投票事項23」という投票案件も提出された。州の景気が回復するまで環境対策に関連する法律の施行を凍結しようとするもので、カリフォルニア州の石油会社2社が強く支持した。だが反対派にも強力な支援が集まり、結局「住民投票事項23」は否決された。環境保護のロビー活動を行っている「自然保護のための有権者行動連盟(LCV)」のトニー・マッサロ氏はこう話す。「カリフォルニア州の失業率はアメリカ国内で3番目に高い。クリーンエネルギー産業を足掛かりにして現状を打開したいというのが州の民意だと思う」。

 そして否決実現の重要性は、連邦政府とは別の枠組みによる環境問題への対応にあらためて注目を集めた点にあるとマッサロ氏は考える。「われわれは今後も、州レベルで環境問題に取り組んで行くつもりだ」と同氏は決意を述べた。

Photograph by Shannon Stapleton, Reuters

文=Marianne Lavelle

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