アノマロカリスはこれまで、この頑強な口で、同じく海底に生息していた無脊椎の節足動物である三葉虫など硬い殻に覆われた生物を噛み砕いて食べていたと考えられていた。しかし、アメリカにあるデンバー自然科学博物館の古生物学者ジェームズ・“ホワイティ”・ハガドーン氏の研究チームは、アノマロカリスの口の3Dコンピューターモデルを使った研究を行い、従来の説を否定する新説を発表した。
「アノマロカリスは“百獣の王”ではなかったのではないかと我々は考えている」とハガドーン氏は語る。「素晴らしい化石だという事実は変わらないが、海をわがもの顔に泳ぎまわって無力な三葉虫を切り裂くといった、おなじみのアニメーションは見直しの必要がありそうだ」。
アノマロカリスの口のコンピューターモデルでは、現生のエビの柔らかい殻すら噛み砕くことができないことが示された。これでは、ほとんどの三葉虫が持つ硬い殻には歯がたちそうにない。それどころか、口を完全に閉めることさえできなかったらしいという。
つまり、アノマロカリスは、非常に小さいか脱皮したばかりの柔らかい三葉虫を吸い込んで食べることはできたかもしれないが、「三葉虫の約95%は殻が硬すぎて噛めなかっただろう。先に口の方が壊れてしまったはずだ」とハガドーン氏は推測する。
このコンピューターモデルの結論を裏付ける証拠は化石にも見られると同氏は付け加える。例えば、研究チームはアノマロカリスの口の部分の化石を400点以上調べたが、日常的に硬い殻を噛み砕いていた生物なら当然あるはずの傷跡がまったく見られなかった。さらに、胃の内容物や排泄物の化石からも、アノマロカリスが硬いものを食べていたという証拠は見つからなかった。
アノマロカリスは三葉虫ではなく柔らかいものを食べていた可能性が高いとハガドーン氏は話す。「1つの仮説として、水中にいる柔らかいぜん虫類やプランクトンを食べていたのではないかと考えられる」。
この研究は、2010年10月31日~11月3日にデンバーで開催されたアメリカ地質学会(GSA)の年次総会で11月1日に発表された。
Illustration by Marvin Mattelson, National Geographic