2007年に撮影された「チュパカブラ」の頭部。アメリカ、テキサス州クエロのフィリス・キャニオン氏が、DNA鑑定用に保存していた。

Photograph by Eric Gay, AP
 1990年代半ばにプエルト・リコで初めて報告されて以来、家畜の血を吸う謎のモンスター「チュパカブラ(ヤギの血を吸う者)」のうわさはメキシコやアメリカ南西部、さらには中国でも爆発的に広まった。しかし、こうしたうわさは“進化論”によって説明がつくという。 生きたチュパカブラは今年6月にも目撃されており、ネッシーやビッグフットに比べると、はるかに研究しやすい存在だ。ほとんどのケースでは、チュパカブラの正体は極めて重度の疥癬(かいせん)に感染したコヨーテだと判明している。疥癬は命にもかかわる痛みを伴う皮膚病で、毛の脱落や皮膚のしわといった症状が見られる。

 これでチュパカブラの謎は解けたと考える科学者もいる。ミシガン大学の昆虫学者で、疥癬の原因となる寄生虫ヒゼンダニを研究しているバリー・オコナー氏は、「これ以上詳しく調べる必要はないし、ほかの説明を持ち出すまでもないだろう」という意見だ。

ヒゼンダニによる疥癬は人間にもあり、かゆみを伴う発疹を引き起こす。宿主が人間でも、人間以外の動物でも、ヒゼンダニは皮膚の内部に穴を掘り、卵や老廃物を隠す。これに免疫系が反応し、炎症が誘発されるのだ。

人間の場合、ヒゼンダニの老廃物に対するアレルギー反応である疥癬は、少しの不快感で済むのが普通だ。しかし、コヨーテをはじめとするイヌ科の動物は、進化の過程で効果的な対処方法を獲得できなかった。そのため、疥癬によって命を脅かされかねないのだ。コヨーテの場合、反応が非常に激しく、毛の脱落や血管の収縮を伴う。そして、全身の疲労や消耗が引き起こされる。

 チュパカブラが疥癬に感染したコヨーテだとしたら、家畜への襲撃が頻繁に報告されるのもうなずける。「多くの場合、疥癬に感染した動物は衰弱が激しい。いつもの獲物を捕まえるのが難しければ、楽に襲える家畜を選ぶ可能性もある」とオコナー氏は説明した。

 チュパカブラは血を吸うといううわさに関しては、ただの空想や誇張かもしれない。「完全な作り話に決まっている」とオコナー氏は切って捨てた。

 アメリカ、メイン州ポートランドにある国際未確認動物博物館(International Cryptozoology Museum)の館長ローレン・コールマン氏も、特に最近の目撃情報に関しては、その多くが疥癬に感染したコヨーテやイヌ、コヨーテとイヌが交雑した「コイドッグ」の外見で説明がつくと考えている。

 ただし、「十分な説明にはなるが、伝説そのものが否定されたわけではない」とコールマン氏は強調する。例えば、プエルト・リコでチュパカブラが目撃され始めた1995年には200件以上の報告があったが、明らかにイヌ科の動物ではなかった。

「1995年当時、チュパカブラは二足歩行の生物と考えられていた。身長は1メートルくらいで、短い灰色の毛に覆われており、背中からトゲ状の突起物が生えていたそうだ」とコールマン氏は述べる。

 ところが、1990年代の後半に入るとまるで伝言ゲームのように、間違った報道によってチュパカブラの描写が“進化”していったという。そして2000年ごろには、新しいイヌ科の動物にほとんどが変わっていた。今では、4本足で家畜に忍び寄るのがチュパカブラだ。

では、二足歩行のチュパカブラの姿はどう説明すればよいのだろうか。

 コールマン氏によると、1995年夏にプエルト・リコでエイリアンが登場するホラー映画『スピーシーズ 種の起源』が封切られ、それを見たり、うわさを聞いたりした人々が想像を膨らませた可能性があるという。「ナターシャ・ヘンストリッジが演じたエイリアン“シル”の背中には、紛れもなくトゲ状のものが生えていた。1995年に報告されたチュパカブラのイメージと一致する」。

 また、実験施設から脱走したアカゲザルを見間違えたという説もある。アカゲザルは後ろ足だけで立つことが多い。「当時のプエルト・リコでは、血液の実験にアカゲザルが使われていた。そのサルたちが脱走した可能性もある」とコールマン氏は指摘する。「確かに辻褄は合うかもしれないが、いつの世にも見たこともないような生き物がゾロゾロいるじゃないか。脱走したサルなんてつまらないね」。

Photograph by Eric Gay, AP

文=Ker Than