ハイラックスの尿が気候の歴史を解明

2010.10.18
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ケープハイラックスの結晶化した尿のサンプルを採集するために岩場を降りる科学者ブライアン・チェイス氏(資料写真)。

Photograph courtesy University of Liecester
 先史時代に残された、モルモットに似た哺乳動物ケープハイラックスの尿が、乾燥地帯の気候変動を解明する最適なツールの1つになるかもしれないとする研究が2010年10月12日に発表された。ケープハイラックスの結晶化した尿を分析したところ、現在の気候モデルの一部と矛盾する点が見つかったという。 ケープハイラックスは齧歯(げっし)類に似ているが、むしろゾウやマナティーに近い種で、体長はおおよそウサギと同じである。何万年も前からサハラ以南のアフリカと中東に生息し、最大約50匹のコロニーを作る。彼らは“共同便所”で排泄し、ここで排泄物が徐々に結晶化し、見た目が琥珀に似た、悪臭を放つ物質となって何層にも堆積する。

 琥珀と同じく、この排泄物にも貴重な痕跡を見つけることができる。この場合の痕跡とは、ケープハイラックスが食べた草の量を示す証拠と、その草の乾燥の度合いを示す同位体だ。そのため、残された糞尿の中にはこの地域の植生の変化を2万8000年前からほぼ完全にたどれるものもあると、研究を率いたフランスにあるモンペリエ大学進化科学研究所のブライアン・チェイス氏は話す。

 古代の排泄物がとりわけ重要視される理由は、今回の研究が行われたアフリカ南部などの乾燥地帯では古代の気候変動の証拠を見つけることが難しいためだ。研究に参加した南アフリカ共和国にあるケープタウン大学の自然地理学者マイク・メドウズ氏によると、先史時代の気候を知る手がかりは、湖や泥炭湿地に残る堆積物の層から得られることが多いという。ところが乾燥地帯には「湖も沼地も、あまり多くはない」。

 こうしたケープハイラックスの尿は、アフリカ南部だけでなく世界の気候を理解する上でも重要かもしれないと研究チームは指摘する。例えば現在の気候モデルでは、約5500年前に北半球の乾燥が進行したことに伴い南半球の湿度が高くなったとされている。しかし、「Quaternary Research」誌2010年7月号に掲載された研究チームの論文によれば、古代のケープハイラックスの尿の標本に残された痕跡から、この時期にはアフリカ南部も乾燥していたことがわかったという。「過去を説明できない気候モデルによる将来予測に、どれほどの信頼性があるのだろうか」と、研究を率いたチェイス氏は疑問を呈する。

 この問題を解決するべく、ロッククライミングの名手でもあるチェイス氏は、結晶化したケープハイラックスの尿の採集を2006年から続けている。現在はさらに多くの尿を集める5年間のプロジェクトを継続中だが、これがなかなか簡単な作業ではない。多量の尿を含む堆積物をかき取るには強力な電動工具が必要だが、堆積物が見つかるのは洞窟の中や岩棚の下なのである。

 しかも、においがある。「我慢できないほどではないが、あまり気持ちいいものではない。小便臭くて。ある程度は慣れるけどね」と、ケープタウン大学のメドウズ氏は明かす。

Photograph courtesy University of Liecester

文=Rachel Kaufman

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