ハンガリー事故が示す鉱滓ダムの危険性

2010.10.14
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ハンガリー西部の町デヴェチェルで消防士が有毒汚泥の除去活動にあたる。10月4日、同国で鉱滓ダムが決壊し廃水が流出するという惨事が起きた。

Image courtesy EO-1/NASA via Earth Observatory
 ハンガリー西部の町アイカで10月4日、アルミニウム精錬工場の工業廃液を貯水する鉱滓(こうさい)ダムが決壊し、ヒ素や水銀などの有害物質を含む廃液が大量に流出した。推計69万7000キロリットルが付近の町村を埋め尽くし、メキシコ湾原油流出事故に匹敵する大惨事となった。強アルカリ性の赤い汚泥がマーチャル川や近隣の町村へ流れ込み、12日現在で少なくとも8人の死者が出ている。 同国のビクトル・オルバン首相は、生態系に重大な被害をもたらす同国史上最悪の環境災害だと述べている。だがほかの政府関係者らは、廃液は河川で希釈され有害物質の濃度が下がるため、ドナウ川の生態系には深刻なダメージを与えないという見方を示した。これに対し、グリーンピースなどの環境保護団体が真っ先に疑問の声を上げている。

 ドナウ川は既に都市部からの生活排水や工業排水、農場の余剰農薬や化学物質で水質汚染が深刻化している。今回の事故はこれに追い討ちをかける恐れがある。

 死亡者も出したこの事故の原因はハンガリーの鉱滓ダムの建設基準が低すぎたことにあるとアメリカ、モンタナ州の鉱業コンサルタント、ジム・カイパース氏はみている。

 それに対し、ウィスコンシン大学マディソン校で淡水を研究するエミリー・スタンリー氏は、この事故は他国でも起きる可能性があると指摘する。「特に東ヨーロッパでは、誰も管理していない鉱滓ダムや貯水池などの施設が多数存在する。財源不足で政府も放置しているのが現状だ」。

 世界全体での鉱滓ダムの決壊率は、貯水用途など通常のダムの10倍近くにも跳ね上がると推計する専門家もいる。また、鉱滓ダムの多くは河川近くに建設されているため、水路に及ぼす環境破壊のリスクは必然的に高くなる。

 2000年には、ルーマニアでも金鉱の鉱滓ダムが決壊し、猛毒のシアン化合物を含む廃液がティサ川、そしてドナウ川へと流出した。廃液の影響で流域生物の80%が死滅する事態となった。

 科学者や環境保護団体は、鉱業プロジェクトの規模が大きいほど、ダム決壊の被害も甚大になると懸念している。

 例えば、アメリカのアラスカ州ブリストル・ベイでは世界最大規模の鉱滓ダムが建設される予定だ。「これが決壊したら、今回の事故とは比べものにならないほど深刻な事態になる」と、ワシントンD.C.に本部を置く環境団体アースワークスで研究部門の責任者を務めるアラン・セプトフ(Alan Septoff)氏は警告する。

 また別の懸念として、多数の老朽化した鉱滓ダムが適切な整備や改修を受けずに放置されていることも挙げられる。「ベビーブームのようにダム建設が相次いだ時期があった」とスタンリー氏は話す。「ダムは老朽化し、劣化が顕著になっている。検査もなく、定期的な整備・改修を怠れば、今後同様の事故が起きるのは目に見えている」。

 同氏は次のように指摘する。「鉱業界は自らの解決能力を喧伝してきた。だが悲しいことに、大惨事が起きなければ腰を上げない場合が多い」。2008年には、アメリカ、テネシー州にあるテネシー川流域開発公社(TVA)のキングストン石炭火力発電所の鉱滓ダムが決壊し、420万立方メートル以上の石炭灰がエモリー川に流出した。

「事故が起きてからだが、アメリカ環境保護庁(EPA)をはじめ当局が直ちに国内の類似施設をすべて調査した」と、前出のカイパース氏は話す。「今度こそこのような事故が二度と起こらないように、鉱滓ダムの安全性を見直し、運営状況を改善するきっかけにしなくてはならない」。

Image courtesy EO-1/NASA via Earth Observatory

文=Ker Than

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