“結晶の洞窟”で発見された微生物の謎

2010.10.13
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メキシコ、ナイカ鉱山の地下にある「結晶の洞窟」。冷却スーツに身を包んだ研究者たち(写真左)が、灼熱の環境の中で調査を行っている。

Photograph courtesy Oscar Necoechea, Speleoresearch & Films/NGT
 巨大な結晶の柱があらゆる方向から突き出すこの場所は、通称「結晶の洞窟」と呼ばれる地下洞窟の内部である。見た目とは裏腹に洞窟内は高温多湿で、冷却スーツを着用しなければ長時間の作業は難しい。そんな過酷な環境の中で続く調査から、最近新たな事実が判明してきている。“結晶の洞窟”は、メキシコ、チワワ砂漠にあるナイカ鉱山の地下およそ300メートルに広がる洞窟群の一部である。この洞窟群には元々高温の地下水が満ちていたが、現在は銀や亜鉛などを効率的に採掘するため工業用ポンプで排水している。

 洞窟の高さは2階建ての建物ほどで、広さはフットボールコート程度。石膏の結晶でできた巨大な柱が、天井や床、側面から無秩序に突き出している。支えを持たない自立結晶としては世界最大級の大きさだ。混沌の世界を絵に描いたような光景だが、個々の結晶は“自形”と呼ぶ結晶本来の鋭い幾何学的な形状をしている。

 アメリカ、オハイオ州にあるマイアミ大学の鉱物学者ジョン・ラコバン(John Rakovan)氏によると最大の特徴は、巨大でありながら輝く宝石のような印象を与える点にあるという。

「一般に結晶は巨大化すればするほど、本来の形が失われて岩のようになる。“結晶の洞窟”が発見されるまで、これほど大きな結晶が完全な自形を保つことは不可能だとされていた」。

 一見すると巨大な氷柱のようにも見えるが、地下のマグマだまりから漏れ出る過熱空気にさらされているため大変熱い。洞窟内も温度48度、湿度90%と過酷で、冷却スーツを着用しなければわずか30分で死に至ることもあるという。

 アメリカ、ニューメキシコ工科大学で宇宙生物学と洞窟科学を研究しているペネロープ・ボストン氏は、「魅惑的であると同時に恐ろしい環境でもある」と語る。

 巨大な鉱物結晶が織り成す光景には思わず目を見張るが、「結晶の洞窟」ではそれ以上に興味深い事実も見つかっている。2008年ボストン氏らの科学者チームが調査した際、結晶内の微小な空洞に微生物が生息しているのを発見した。

 また、別のチームと共に再び調査に向かった2009年12月には、前回の調査以降にできた水たまりの中からバクテリアとそれをエサにするウイルスの採取に成功した。特にウイルスは水1滴に2億個も増殖していたことがわかっている。

 さらに驚くべきことに、洞窟内で採取したバクテリアのDNAを分析したところ、南アフリカやオーストラリアの洞窟、海底の熱水噴出孔など世界各地の苛酷な自然環境に生息する微生物と近縁関係にあると確認されたのだ。

 ボストン氏は、「現在われわれは、似たような環境に生息する微生物に注目している」と話す。カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学の生物学者で2009年の調査に参加したカーティス・サトル(Curtis Suttle)氏によると、距離的に互いに遠く離れた微生物間にDNAの類似性が認められることは極めて不思議だという。

「メキシコのナイカ鉱山と、ギリシャの熱水噴出孔や南アフリカの地下金鉱の微生物が、なぜ近縁種なのか? もっとも、南アフリカとメキシコが地下で洞窟や水脈によってつながっているとすれば話は別だが」。

 地下のバクテリアに地球規模のネットワークが存在するとは途方もない発想だが、中には「結晶の洞窟」と火星など他惑星との間に相関関係があるのではないかと考える科学者もいる。

 ニューメキシコ工科大学のボストン氏は、火星の地質が地球よりも全体的に安定している可能性を認めつつも次のように述べる。「地熱活動によって形成され、液体の水が存在し、かつ化学的に還元されたガスが地中から噴出して生命の栄養源になっている。“結晶の洞窟”と同じような場所が火星にも存在しないと誰が断言できるだろうか」。

Photograph courtesy Oscar Necoechea, Speleoresearch & Films/NGT

文=Ker Than

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