海洋生物のセンサス、十年の成果を発表

2010.10.05
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「海洋生物のセンサス(CoML)」の研究者が水槽内の生物を観察している(オーストラリアで撮影の資料写真)。

Photograph courtesy Gary Cranitch, Queensland Museum
 海洋生物の多様性と生態を解明する国際プロジェクト「海洋生物のセンサス(CoML)」が10月4日、10年間の調査活動を終えた。世界中で数千人の科学者が数百回の探検調査を実施し、数千の新種生物を発見した。しかし、その圧倒的な成果も、海の全貌の一端に過ぎない。 以下に、CoMLによる5つの偉大な発見を紹介する。10年間で達成された偉業と、いまだ残る未知の領域を把握できるはずだ。

【1】600歳のチューブワーム

 深海の暗闇の中、600年近くも生き続ける体長約1メートルのチューブワーム(学名:Escarpia laminata)が発見された。地球上で最も長生きする生物の1種だ。

 同じく新種の巨大カキ(学名:Neopycnodonte zibrowii)も見つかった。深海の崖でカキ礁を形成しており、放射性炭素年代測定の結果、その寿命は100~500年に及ぶと確認されている。

【2】海を支配する微生物

 海洋の全生物質量の90%を極小の微生物が占めることもCoMLの調査で明らかになった。

 イギリスにあるシェフィールド大学の生態学者トム・ウェブ氏はCoMLに直接関与していないが、第三者の立場で次のようにコメントする。「生態系の中で微生物が果たす役割は非常に大きい。今回、海洋に数百万種の微生物が生息する可能性が示されたが、現時点での研究成果は皆無に等しい」。

【3】いまだ未知の海

 10年間に世界中で540回の探検調査が実施されたが、いまだ20%以上の海洋がまったく手つかずのままだ。既知の海洋生物は23万~25万種と概算されたが、未知種も含めた海洋生物種の全体数は、いまだ正確な見積りが得られないという。

 海洋を6つの領域に大分割したフィールドプロジェクトの1つ、「サンゴ礁のセンサス」で共同責任者を務める海洋生物学者のナンシー・ノールトン氏は、「CoMLの偉業は多くの発見にとどまらない。未調査領域の規模も把握できた」と話す。

【4】マンハッタン規模の魚群

 アメリカ大西洋岸のメイン湾で数千万匹のタイセイヨウニシンを追跡調査した結果、ニューヨーク、マンハッタン島の面積に匹敵する規模で魚群を形成していることが確認された。

 この発見には、CoMLが開発した音響システムも貢献している。数千平方キロにわたって魚群を追跡できる優れた観測機器で、現在は海洋調査の新たな標準ツールとなっている。

アメリカのスミソニアン研究所国立自然史博物館に在籍する前出のノールトン氏は、数々の新しい機器が今後の海洋調査に大きく貢献すると期待している。

【5】“ドールハウス”でサンゴ礁の多様性が明らかに

 CoML向けに開発された自動サンゴ礁監視ユニット(ARMS)は一見、四角いドールハウスのようにも見えるが、地域ごとに異なるサンゴ礁の生物多様性を正確に比較できる世界初の観察装置である。

 一辺は30センチほどでアクリル素材の層構造になっており、自然のサンゴ礁にできる亀裂やひび割れを模倣している。そこに入り込んだ生物の様子を観察するという発想だ。現在は約600個が世界中のサンゴ礁に設置されている。

「ARMSによりサンゴ礁の生物多様性が明らかになった。数を割り出すのが不可能なほど多くの生物が生息している」とノールトン氏は語る。

◆海洋生物のセンサス、応用は広範囲

 人間の人口調査と同様に、海洋生物のセンサス(個体数調査)の結果もさまざまな用途がある。

 6億5000万ドルをかけたこの調査により、最も保護を要する海域が明らかになった。さらに、気候変動、漁業資源の乱獲、原油流出などがもたらす今後の変化を測定するための基準値も設定できた。

「海の生態系は人間活動から深刻な影響を受けており、その状況は次々と明らかになってきている」と語るシェフィールド大学のウェブ氏だが、その意見は肯定的だ。「センサスがきっかけとなり、海の生物多様性に理解が深まればいい。われわれの生活が海の生物にいかに依存しているか、その認識も改まると希望している」。

Photograph courtesy Gary Cranitch, Queensland Museum

文=Helen Scales in London

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