ゴキブリの脳から新たな抗生物質?

2010.09.10
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ワモンゴキブリ(イラスト)。

Illustration by Paul M. Breeden, National Geographic
 見ただけで鳥肌立つ人も多いゴキブリだが、そのゴキブリの脳が人の命を救う日が来るかもしれない。 メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や病原性大腸菌など、ヒトにとって致死性のある細菌を死滅させる天然の抗生物質をワモンゴキブリの中枢神経系が作り出すという研究が発表された。また、現在までに3種のバッタも細菌を殺す同じ分子をその小さな脳の中に持つことがわかっている。

 研究の共著者でイギリスのノッティンガム大学のサイモン・リー氏によると今回の発見は、地球上の動物の80%を占める昆虫の世界には新しい抗生物質が豊富に存在している可能性があることを示唆するという。

 現在、従来の抗生物質に耐性を持つMRSAなどの細菌が引き起こす複数の感染症の対策が急務になっており、こうした発見は非常に重要な意味を持つとリー氏は話す。

「これは有望だと思う。普通は調べないような場所を我々は調べている。私が知る限り、ゴキブリの脳を調べている人はほかにいない。しかし、新たな抗生物質を見つけるにはこのような研究が必要だ」。土壌微生物、菌類、人工的に作られた分子など、「普通に思い付く場所はもう調べ尽くされている」。

 リー氏の研究チームは実験室でゴキブリを解剖し、組織と脳を分析した。「見た目も嫌だが、臭いもひどいものだった」とリー氏は明かす。また、バッタの組織と脳も分析した。

 ゴキブリとバッタの脳から見つかった9種類の抗菌性の分子を調べたところ、各分子が異なる種類の細菌を殺すよう特化していることがわかった。この“非常に賢い防御メカニズム”によって、昆虫たちは極めて非衛生的な環境でも生き延びることができるとリー氏は説明する。

 さらに、抗生物質は最も重要な部分である脳の組織にしかないこともわかった。例えば脚に細菌が感染しても昆虫は生き伸びられそうだが、脳への感染は致命的となる可能性が高い。

 昆虫の脳から医薬品が開発されるのはかなり先になるというが、希望がないわけではない。研究チームが昆虫の抗生物質をヒトの細胞に付加する実験を行ったところ、有害な作用は起きなかった。

 この研究の予備報告は、ノッティンガム大学で2010年9月6~9日に開催された英国総合微生物学会で発表された。

Illustration by Paul M. Breeden, National Geographic

文=Christine Dell'Amore

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