400年前の書簡に失われた言語を発見

2010.08.30
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スペイン人が作成した書簡の裏面に記されていた数字の翻訳。

Photograph courtesy Jeffrey Quil
 400年前の書簡の裏面に残されていた走り書きから、ペルー北部の先住民がかつて話していた未知の言語の存在が明らかになった。 無名のスペイン人が書き記し、400年間誰の目にも触れなかった古びた書簡は、スペインの植民地統治時代に建立されたペルーの教会遺跡で2008年に発見される。しかしごく最近まで、科学者と言語学者から成る研究チームは裏面に書かれた内容の重要性に気付かなかった。

 書簡の執筆者は17世紀初頭に、スペイン語の数字「uno(1)」「dos(2)」「tres(3)」やアラビア数字を、現代の専門家が誰も知らない謎の言語に翻訳している。

「この書簡だけでは全容解明にほど遠いが、どの言語ともまったく異なるのは間違いない。しかも、他にも存在するようだ」と、プロジェクトを率いるハーバード大学人類学部ピーボディー考古学・民族学博物館の考古学者ジェフリー・キルター氏は話す。

 新発見の土着言語について同氏は、ペルーの先住民が現在も使っているケチュア語から派生した可能性を指摘している。

 しかし書簡の言語には独自の特徴がはっきりと認められる。当時の文書でも名前しか書かれていない、漁師が話していたとされる言語「キングナム(Quingnam)」と「ペスカドーラ(Pescadora)」のどちらかである可能性もある。

 ただしこの2つの言語は本当は1つで、文書を残した当時のスペイン人が異なる言語と誤認したと考える研究者もいる。

 また、数字が翻訳されていることから、この失われた言語の記数法が英語と同じ10進法だったことも判明した。インカ帝国も10進法だったが、別の記数法を使っていた文明も多い。例えばマヤ文明では20進法を使用していたという。

 今回の書簡は、ペルー北部のエル・ブルホ複合遺跡でマグダレーナ・デ・カオ・ビエホ(Magdalena de Cao Viejo)教会の発掘時に発見された。

「この教会は近くの町にかつて居住していた先住民が利用していたが、彼らは代々この地で暮らしていたわけではなく、おそらくキリスト教への改宗を目的にスペイン人によって強制移住させられたんだろう」とキルター氏は解説する。「今回の興味深い書簡は、同じ遺跡から出土した数百点に及ぶ歴史的文書の中の1つだ。極度の乾燥と教会の倒壊のおかげで保存状態は良好だった」。

 また同氏は、「考古学者という職業は人々の不運の上に成り立っている」とも話す。「スペイン人支配者たちは、教会が倒壊する不運に見舞われた。時代は17世紀中・後期と思われるが、倒壊後は書庫や部屋に保管されていた文書が“タイムカプセル”に封印されてしまった。そして私たちが今その恩恵を受けている」。

 マグダレーナ・デ・カオ・ビエホでの新しい言語の発見は、植民地支配が始まった当時の南北アメリカにあった多様な文化の裏付けになるという。

 キルター氏はこう説明する。「“(戦慄するほど)面白い時代を生きますように(May you live in interesting times)”という悪態のセリフがあるが、まさに当時はその逆説的な意味で極めて“面白い”時代だった。

“スペイン人対アメリカ大陸の先住民”という単純な構図を想像しがちだが、アメリカのマサチューセッツ州からペルーに至るほとんどすべての地域で起こっていたのは、もっと多様な民族が入り乱れた混沌とした対立だった」。

 例えば、当時の入植者はみな「スペイン人」と一くくりにされていたが、実際にはヨーロッパ各地から来ており、南北アメリカにも言語や習慣が異なる多くの先住民族が暮らしていた。「当時の南北アメリカは極めて豊かで多様だった」とキルター氏は語る。

 今回の研究成果は、「American Anthropologist」誌の9月号に掲載されている。

Photograph courtesy Jeffrey Quil

文=Brian Handwerk

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