セレンゲティ国立公園に道路建設計画

2010.08.17
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先を争ってクロコダイルから逃げるヌーの群れ。タンザニアのセレンゲティで撮影。

Photograph by Mark Deeble and Victoria Stone, Oxford Scientific/Photolibrary
タンザニア政府がセレンゲティ国立公園を通る幹線道路の建設計画を推進している。これに対し環境保護論者は、毎年のヌーの大移動を一般車両の通行が妨げるばかりでなく、密猟者が公園内に侵入しやすくなると強い懸念を示している。 この地域では毎年、季節の変わり目に百万頭を超えるヌーが草と水を求めて、タンザニアのセレンゲティを通ってケニアのマサイマラ国立保護区に至る大きな円形の経路を大移動する。

 アフリカ野生生物基金(AWF)のマサイ・ステップ地区責任者スティーブン・キルスワ氏は、「何百万頭ものヌーが毎年移動するような自然環境に一般車両用の道路を建設すると、野生の生息地が脅かされ、動物に与えるストレスの大きさは測り知れない」と憂慮する。

 環境保護論者の懸念をよそに、タンザニアのジャカヤ・キクウェテ大統領は2010年7月下旬に行った演説の中で、2005年の大統領選挙での公約の1つである道路建設案を政府は実行に移す予定だと発言した。政府高官は、成長著しいタンザニア北西部の各都市とタンザニアの他の地域とをこの道路が結ぶことで国内経済の発展に寄与するとしている。

 キクウェテ大統領は、道路建設反対派の意見は耳に入っているが、「それは海外からの声だ」とし、「私自身も環境保護の忠実な支持者であり、自然破壊を許すようなことは決してないと断言する」と語った。

 しかし、タンザニアに拠点を置く環境保護団体の職員によれば、政府はタンザニア国立公園(TANAPA)のスタッフに対し、この計画に対する懸念を公言しないよう命じたという。政府による処分を恐れて匿名で取材に応じたこの環境保護活動家は、「国立公園には道路建設の支持者など皆無だが、大統領は政府に従うよう指示した」と明かす。

 現行の道路建設案では、人口が増加傾向にあるビクトリア湖周辺、キリマンジャロ山の登山客が拠点とするアルーシャ市、さらにタンザニアの他の地域を新しい道路で結ぶことになっている。現在タンザニア国内で商業輸送に適した道路は、セレンゲティ国立公園の南端のはるか南を走る1本しかないため、タンザニア北西部の町はほぼ孤立している。

 建設案には公園内を通る全長54キロの道路が含まれている。この道路とその両側に設けられる幅各50メートルの緩衝地帯は国立公園の指定を除外され、輸送トラックが自由に往来できるようになる。

 公園内を抜ける新道路の建設については、道路交通がヌーの移動の妨げとなるという懸念などから、何年も議論が続いている。

 世界銀行は1980年代に、同様の道路建設案に対する融資の要請を、環境への悪影響を理由に拒否している。セレンゲティ国立公園がユネスコ世界遺産に登録されていることから、同公園内を通る道路の建設は「タンザニアの世界遺産条約への加盟目的に反する」というのが世界銀行の見解だ。また、道路が建設されれば「移動性動物が大量に死に」、セレンゲティ国立公園の観光地としての価値も下がるとしている。

 1996年にはノルウェーのコンサルティング会社が複数の道路建設案について環境への影響の評価を行ったが、その報告書は一貫してセレンゲティ国立公園を通る道路の建設に否定的だった。一方、2007年にタンザニアのコンサルティング会社が実施した別の調査では、野生動物への影響は緩和できると報告された。

 TANAPA 広報担当者パスカル・シェルテテ氏によると、環境への影響と道路建設案の実現可能性を検討する別の調査が現在進行中で、2010年12月に結果が出るという。それまでは、同氏は道路建設案と環境問題についてコメントしない姿勢だ。

 同氏は電話での取材に対して次のように答える。「TANAPAは政府機関であり、政府の決定を実行すべく努力する。ただし建設工事を開始する前に、建設案の実現可能性と環境への影響の評価を行わなければならない。これは政府の決定であり、政府機関は政府の意向に従わなければならない」。

 タンザニアの政府要人は同国メディアに対して、道路建設案への懸念に答える発言をしている。例えばシャムサ・ムワングンガ天然資源・観光大臣は「The East African」紙に対して、道路建設案は「環境活動家が訴えるような、セレンゲティの生態系や野生動物の大移動を脅かすものではない」と説明している。政府高官によると、道路の建設工事は2012年に開始される予定だ。

 環境保護論者の中にはヌーが通るためのトンネルを道路の下に作るべきとの意見もあるが、このような建設プロジェクトは大規模で費用もかかる。一方、セレゲンティ国立公園を保護できると同時に幹線道路建設のニーズも満たすルートの代替案を示す保護論者もいる。

 カナダにあるブリティッシュ・コロンビア大学の生態学者でセレゲンティ国立公園に関する世界有数の専門家アンソニー・シンクレア氏は、同公園の南端に沿って道路を作る方が、距離が長くなるが経由する都市も増えるため、現行案よりも多くの人々の役に立つと提案する。同氏は自然保護活動家やジャーナリストに最近配布した記事の中で次のように書いている。「道路は経済発展という目的に必ずしも寄与する必要はない。南を通るルートなら環境問題は起こらず、現行案よりも経済的なメリットがはるかに大きい」。

 それでも、ナショナル ジオグラフィック協会付き探検家でセレゲンティ国立公園の野生動物の映像を長年撮影してきたデレック・ジュベール氏は、政府の経済成長への意欲も理解すべきだと話す。もし道路建設案が実行に移されれば、自然保護活動家は政府と連携して道路の悪影響を緩和するよう努めるべきだと同氏は主張する。なぜなら、建設作業員や密猟者がセレゲンティ国立公園にとって環境破壊よりも大きな脅威になるかもしれないからだ。

「建設作業員は公園内に立ち入ってキャンプを設営する。密猟を始め、ライオンに襲われそうになってライオンを殺す。最初にやられるのはヌーではなく、その捕食動物だ。道路の建設工事は、完成後の道路の利用と同じくらい公園への悪影響が大きい」。

Photograph by Mark Deeble and Victoria Stone, Oxford Scientific/Photolibrary

文=Nicholas Wadhams in Nairobi, Kenya

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