シラエビは、排水中に含まれる抗うつ剤の被害を受ける水生生物のほんの一例に過ぎないかもしれない(資料写真)。

Photograph by David Doubilet, National Geographic
 世界各地の下水道などに垂れ流される抗うつ剤の残留物の影響で、エビの行動が変化し、捕食されやすくなっているという最新の研究が発表された。抗うつ剤プロザックを飲んだエビは“ハッピー”にはならないようだ。 研究では自然の状態を再現するために、一般的な下水処理後の排水に含まれる濃度の抗うつ剤フルオキセチンの水溶液に、河口などの入江に生息するヨコエビを入れた。フルオキセチンは、代表的な抗うつ剤製品であるプロザックやサラフェムの主成分だ。

 エビは安全で薄暗い物陰にいることを好むのが常だが、フルオキセチンの影響を受けたエビは、水中の明るい場所に向かって泳いていく確率が通常の5倍であることが実験でわかった。イギリスにあるポーツマス大学の生物学者で研究の共著者アレックス・フォード氏は、「こうした行動の変化によって、エビは魚や鳥などの捕食者にかなり襲われやすくなる」と説明する。フルオキセチンの作用によってエビの神経は、心的状態や睡眠のパターンを変化させることで知られる脳内化学物質セロトニンの影響を受けやすくなるという。

 抗うつ剤の使用量は近年急増しつつある。「Archives of General Psychiatry」誌に2009年に掲載された論文によると、2005年に抗うつ剤を使用したアメリカ人は約2700万人で、アメリカの全人口の10%を超えるという。抗うつ剤の使用が拡大することで、エビ以外の生物へも大量のフルオキセチンが影響を与えるのではと研究チームは懸念する。

「今回の実験は、どこにでもいて食物連鎖の中でも重要な位置を占めるエビに焦点を当てて行ったが、セロトニンは魚などエビ以外の生物の行動の変化にも関係がある」とフォード氏は指摘する。同氏は、抗炎症剤や鎮痛剤など他の多くの一般的な処方薬も水生生物に被害を及ぼす可能性があると警告する。

 しかし、人間が服用する薬の弊害から水生生物を守る方法もあると同氏は主張する。例えば、責任ある薬の廃棄について社会の認識を高めたり、下水処理で薬を分解する技術を改良したりするなど、問題解決に向けでできることはたくさんあるという。

 この研究は、「Aquatic Toxicology」誌オンライン版で2010年6月4日に公開された。

Photograph by David Doubilet, National Geographic

文=Kate Ravilious