メキシコ湾で新種の魚、原油で危機

2010.07.12
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原油流出事故が発生したメキシコ湾で、漂う原油の真下の海底を“歩く”2種類の新種の魚類が発見された。発見されたのはヒメグツ属の2種で、ヒトの手のひら程度の大きさしかない。石油採掘基地ディープウォーター・ホライズンから原油の流出が続く中で、流出する原油と、それを除去するための石油分散剤の影響を受け、すでに危機に瀕している恐れがあるという。

Image courtesy AMNH
 原油流出事故が発生したメキシコ湾で、漂う原油の真下の海底を“歩く”2種類の新種の魚類が発見された。発見されたのはヒメグツ属の2種で、ヒトの手のひら程度の大きさしかない。石油採掘基地ディープウォーター・ホライズンから原油の流出が続く中で、流出する原油と、それを除去するための石油分散剤の影響を受け、すでに危機に瀕している恐れがあるという。 この新種は体が扁平で、腕のような頑丈なヒレを使って体を持ち上げ、海底をヨロヨロと歩く。この様子がコウモリが歩く姿に似ていることから、英語では“コウモリ魚(batfish)”という名前が付けられている。

 これまでヒメグツは各地に広く分布する1つの種と思われていたが、最近博物館の標本を分析し直したところ、実際には3つの種に分かれていることがわかった。この分析は、4月20日にメキシコ湾で原油流出事故が発生する以前に行われた。

 今回発見された新種のうちの1つ(学名:Halieutichthys intermedius)はメキシコ湾でしか生息が確認されていない。ルイジアナ州の海岸など生息域の一部は、流出した原油によってすでに大きな被害を受けている。

 もう1つの新種(学名:Halieutichthys bispinosus)はメキシコ湾北東部の海岸沿いのほか、フロリダ州、ジョージア州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州の大西洋岸に生息する。ここ数週間で、フロリダ州のメキシコ湾岸が原油で汚染され始めている。

「いまだにメキシコ湾で新種の魚類が発見されている。メキシコ湾にどれだけ多様な生物が生息しているのか想像もつかない」と、ニューヨークにあるアメリカ自然史博物館の水産生物学者で研究の共著者ジョン・スパークス氏は声明の中で述べた。

 流出した原油はいくつかの点で新種のヒメグツの脅威となっている。ルイジアナ州立大学の水産生物学者で研究の共著者プロサンタ・チャクラバーティ氏によると、ヒメグツが餌とするプランクトンが、漂う油膜によって死ぬ可能性がある。また、海底に住むヒメグツの成魚は、事故を起こした石油採掘基地から流出する原油の被害を直接受けているかもしれない。さらに、海水面を移動するヒメグツの卵や幼魚が有毒な原油によって死滅する恐れもある。

 これに加えて、原油を細かい粒子に分解して微生物が消化しやすくするのに使われる化学分散剤もヒメグツにとって有害である可能性があると同氏は話す。現在、事故の被害拡大を抑えるための抜本的な対策として、水中にある原油の流出源に分散剤が直接散布されている。しかし、深海に散布された分散剤が海水面で散布された場合と同じように生物分解されるかどうかは定かではない。

 また、原油を分散剤で分解したとしても、それを消化できる種類の微生物が深海にいるかどうかもはっきりしないとチャクラバーティ氏は指摘する。「どのようにして原油が分解され、それがヒメグツにどのような影響を与えるのかはまったくわからない。しかるべき研究を行ってからでなければ、このような作業を行うべきではなかった」。

「来年になって海面から原油が消えたら、人々がこのことを忘れてしまうのではないかと恐れている。メキシコ湾の問題はすべて解決したと人々は言うだろう。しかしその間にも、実は海の中で恐ろしいことが起こっているのだ」。

 この研究は「Journal of Fish Biology」誌に近日中に掲載される。

Image courtesy AMNH

文=Ker Than

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