アメリカ、フロリダ州ペンサコラビーチ、砂に埋まった原油の塊を調査する地質学者のピン・ワン氏(2010年7月1日撮影)。

Chris Combs/National Geographic
 流出原油が漂着しているアメリカ、フロリダ州ペンサコラビーチの白い砂浜で7月1日、砂に埋まった原油が発見された。 油塊(タールボール)は砂浜の60センチ下に埋まっていた。流出原油がメキシコ湾岸に及ぼす影響に関して5月初旬から調査を進めているアメリカ、南フロリダ大学の海岸地質学研究チームによると、60センチは今までにない深さだという。研究チームのリーダーで地質学者のピン・ワン氏は、「これまでの記録は15センチだった」と話す。

 今回の調査結果から、メキシコ湾岸で除去作業が終わっても、砂浜の下に有毒な原油が残留する可能性が示された。作業に当たる人々の努力も、残念ながらこのままでは無駄に終わりそうだ。

 砂に埋まった原油は除去が困難で、自然に分解するには長い時間がかかる。浜辺を訪れる動物や人間にとって長期にわたり脅威となる可能性があるという。

 湾内で生じる波の影響で、漂着した原油の大半は新しい砂の層の下に埋もれている。特に、6月30日にメキシコ沿岸部に上陸したハリケーン「アレックス」の荒波はメキシコ湾全域に及んだ。

 ただし幸運なことに、アレックスの進路はフロリダ州のメキシコ湾岸地域からは東に数百キロ以上離れていたため、波の影響も限定的だった。

「大きなハリケーンがメキシコ湾の沿岸を通過した場合、砂浜は侵食を受け、砂の下のタールボールが露出する可能性がある。同時に、メキシコ湾の流出原油も沿岸部に大量に押し寄せるだろう」とワン氏は話す。

 地表に再登場した原油もやっかいだが、地中ではもっと面倒な事態を引き起こす。地表では人為的な除去作業を行わなくても、酸素や太陽光、エサとする微生物により分解され比較的早期に姿を消す。ところが埋もれた場合、残存期間がはるかに長くなる。特に、地中深くなればなるほど酸素の量が限られるので分解も進まない。

 したがって数年後、砂のお城を作る手がタールボールを掴んでしまうという事態もあり得る話だ。油に直接触れると皮膚炎を起こす可能性があり、気化した油を吸い込むと、吐き気や頭痛、目まいといった症状が現れる場合がある。米国保健社会福祉省(HHS)によると、既にメキシコ湾流出原油の除去作業員の間からこういった症状が報告されているという。

 研究チームの一員であるティファニー・ロバーツ氏は次のように話す。「現在の除去作業は、あくまで緊急処置にすぎない。最終的には、地面の下に隠れている分にも対応する必要がある」。

 ペンシルバニア州にあるテンプル大学で土木環境工学部門の代表を務めるミシェル・ブファデル氏は、「表面がきれいになれば作業を終えてしまう場合が多い」と話す。同氏は、1989年のエクソン・バルディーズ号の事故で流出した原油の長期的な影響を調査している。

「1992年、作業員たちはようやく除去作業を終え、荷物をまとめて、エクソン・バルディーズ号の事故現場を離れた。しかし、膨大な量の原油が足の下に依然として残っていることには気付かなかった。埋もれた原油のほとんどが現在でも地下で眠っている」。

 きれいな砂浜が嵐の後には一変して、原油で汚染された姿に戻ってしまうかもしれない。「嵐のたびに流出する。その繰り返しだ」と、ブファデル氏は付け加えた。

 この状態が続くと、メキシコ湾岸の砂浜で営巣し子育てを行う野生生物は大きな被害を受けると考えられる。例えば海辺に生息する鳥類には、アカムシ(ユスリカの幼虫)など、砂地に住む小さな無脊椎動物だけをエサにするものがある。このような虫が死滅してしまったらどうなるだろう。

 ガルフアイランド国立海浜公園で資源管理を担当するライリー・ホガード氏は、「原油が波打ち際に侵入してくると虫は毒で汚染され、鳥の食料基地としての役割が崩壊することになる」と話す。

 同様に、メキシコ湾に生息する4種のウミガメの子どもは、砂中の巣穴から地表に脱出するときに砂の層をはって進む。海に向かう途中、埋もれた原油と接触して被害を受け、場合によっては命を落とす事態もあり得るという。

 この問題に対処するため、米国魚類野生生物局(USFWS)は先日より、メキシコ湾岸にある700のウミガメの巣穴からおよそ7万個の卵の避難作業を始めた。フロリダ州東部にあるケネディ宇宙センターの倉庫に設置された施設で孵化した子ガメたちは、メキシコ湾とは反対側の大西洋岸の砂浜で再び自然へ戻される予定だ。

「ウミガメの体内の“磁気マップ”は、孵化するまでにメキシコ湾の砂浜に合わせて調節されると考えられている。この機能により、成長したウミガメは、たとえ目の前にフロリダ半島が横たわっていても、本来のメキシコ湾の水域へと戻っていくはずだ」とホガード氏は話す。

「ただし、このような大規模なウミガメ避難作業は前代未聞で、失敗に終わるかもしれない。それでも、世代丸ごとを失うわけにはいかない」。

Chris Combs/National Geographic

文=Christine Dell'Amore in Pensacola Beach, Florida, and Gulf Islands National Seashore