マウスのオスは涙を武器にメスと交尾

2010.07.05
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ハイイロシロアシマウスの亜種(学名:Peromyscus polionotus peninsularis、資料写真)。

Photograph by Joel Sartore, National Geographic
 涙を流す男に女は燃える? 少なくともマウスの世界ではそうらしい。最新の研究によると、オスのマウスの涙にはESP1と呼ばれる性フェロモンが含まれ、これがあるとメスは交尾を受け入れやすくなるという。 性フェロモンはほかの動物でも同様の効果を持つことが知られているが、研究の共著者である東京大学大学院農学生命科学研究科の東原和成教授によると、その作用を分子レベルと脳レベルの両方で捉えることに成功したのは今回の研究が初めてだという。

 オスのマウスは眼を乾燥から守るために涙を流す。毛繕いをするとその涙が体の周囲や巣の中に拡散し、涙に含まれるフェロモンも同時にまき散らされる。

 メスのマウスがオスと接触したりオスの巣に入ったりすると、メスの鼻にある鋤鼻器官(じょびきかん)という組織の内部で特定のタンパク質がこのフェロモンを受容し、メスがこのフェロモンを感じ取る。

 化学物質には蒸発しやすいものもあるが、「このフェロモンは香料などの合成物質のように揮発性がないので、感じ取るには直接触らなければならない」と東原氏は話す。

 このフェロモンに接触すると、フェロモンはメスの脳の性をつかさどる領域に送られる。するとメスは、尻と尾を上に突き出すロードシスと呼ばれる行動をとる確率が、フェロモンに接触しない場合の3倍になる。この行動は多くの動物が発情期に見せるものだ。

 ヒトの場合は、ESP1をコードする遺伝子やそのレセプターを持たない。したがって、ヒトの男性が繊細な一面を見せるために涙を流してみせたとしても化学的には性的魅力が増すわけではない、と東原氏は語る。「実際、ヒト同士では化学物質のやり取りによるコミュニケーションは行われない。私たちは言葉を使うし、視覚も発達している」。つまり、興味を持った相手を目で品定めできるということだ。

 しかしこの発見は、現実にマウスの繁殖管理に効果を発揮するかもしれない。東原氏によると、「野生のマウスがこのフェロモンを大量に分泌するのに対し、驚くべきことにほとんどの実験用マウスは分泌しない」。その結果、実験用マウスの繁殖効率が低くなり、遺伝子学的に実験に適したマウスを繁殖するために必要以上の時間と経費が使われている可能性がある。

 東原氏の研究チームは、このフェロモンに関する技術を“実験用マウスの交配機会を増やす”技術として特許申請している。

 この研究は「Nature」誌の2010年7月1日号に掲載される。

Photograph by Joel Sartore, National Geographic

文=John Roach

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