海綿状の構造を持つ炭素の球状体の顕微鏡写真。

Image courtesy AGU
 約1万2900年前に巨大な隕石が北アメリカに衝突し、これが原因で1000年間に渡る寒冷期が引き起こされたという説があるが、菌類や昆虫の糞の粒子によってこの説を反証したとする最新の研究が発表された。 ヤンガードリアス期と呼ばれるこの寒冷期は、土壌や氷床コアのサンプルなど地質学的な証拠が豊富に残っている。この寒冷期はまた、マンモスなど氷河期の哺乳動物が北アメリカで絶滅した時期と一致しており、中東で狩猟採集生活を営んでいた人類の祖先が農業を中心とした生活様式に移行する流れに拍車をかけたと考えられてきた。

 しかし、研究を率いたロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校の古植物学者アンドリュー・C・スコット氏によると、彗星や小惑星の爆発が寒冷期を引き起こしたとするこの説は誤りだという。

 隕石衝突説の支持者は、北アメリカ全土に広がるヤンガードリアス期の炭化した堆積層に微小な炭素の球状体が見られることを長年に渡って論拠としてきた。

 この説によれば、爆発した隕石の残骸が地球に降り注いで地上で大火が発生し、その高温に有機物がさらされて、これらの球状体ができたという。

 しかし今回の研究では、ヤンガードリアス期だけでなく、その前後の時代の地層からも炭素の球状体が検出された。そのため、これらの粒子が突発的な物体の衝突によって生じたものだとは主張しにくくなった。

 さらにスコット氏の研究チームは、山火事で中低温にさらされた土壌で現在も見られる固く結球した菌類に、これらの球状体の大半が似ていることを発見した。植物や土壌菌類は極限状況で生き残りやすくするためにこのような球体の物質を作ることが知られている。また、これらの球状体の中でも細長い形状のものは、現生の昆虫の糞粒と一致する。

「こうした粒子は天然の生物起源のものであり、大規模な野火とも隕石の衝突とも無関係だ。マスコミや一般の人たちは派手な大惨事がらみの説明を好むが、その説が成り立たない証拠が出てきたら、その説は捨てるべきだ」とスコット氏は電子メールでの取材に答える。

 ところが、隕石衝突説を支持するカリフォルニア大学サンタバーバラ校名誉教授の地質学者ジェームス・ケネット氏によると、野火の際に形成される生物起源のものを含め、炭素の球状体が地質学上のあらゆる資料に見られることは専門家のほとんどが認めているという。しかし、炭素の球状体が大量に発見されることは少なく、「ヤンガードリアス期の境目に最も集中して見られる」と同氏は話す。

 さらに、炭素の球状体はナノダイヤモンドと呼ばれる微小なダイヤモンドと一緒に発見されるのが普通だ。ナノダイヤモンドは天体の衝突によって引き起こされた条件下で形成されることが多い。

 今回の研究ではナノダイヤモンドが存在した証拠は報告されていないが、直接の目的がナノダイヤモンドを探すことではなかったため、探せば見つかる可能性があるとケネット氏は指摘する。「したがって、今回の研究で報告されたデータは隕石衝突説と矛盾しない」。

 研究を率いたスコット氏は、ナノダイヤモンドについても分析を進めてきたが、結果を発表する段階には至っていないと説明する。しかし同氏は、発見された粒子がナノダイヤモンドとはまったく違う可能性も示唆する。研究チームが分析した菌類の胞子は微細な特徴がナノダイヤモンドに似ているという。「胞子がナノダイヤモンドでないことは明白だ」。

 この研究は「Geophysical Research Letters」誌に近日中に掲載される予定である。

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文=John Roach