チンパンジー、殺し合いで縄張りを拡大

2010.06.22
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
コンゴ共和国のチンポウンガ自然保護区を駆け抜ける成体のオスのチンパンジー。

Photograph by Michael Nichols, National Geographic
 チンパンジーの集団は縄張りを拡大するために近隣のチンパンジーを殴り殺すことがあるという研究が発表された。 チンパンジーが殺し合いをすることがあることは古くから知られていたが、今回の発見は、ヒトに最も近い現生動物のチンパンジーが、奪う価値のある土地を得るためには暴力に訴えることもあるという仮説を裏付けるものだ。

 今回観察の対象となったのは、ウガンダにあるキバレ国立公園のンゴゴに住む合計約150匹のチンパンジーの群れから送り出された、主にオスから成る“パトロール隊”だ。この集団は1999~2008年に近隣のチンパンジー21匹を殺した。

 ミシガン州アナーバーにあるミシガン大学の人類学者で研究を率いたジョン・ミタニ氏は電子メールによる取材に対し、ウガンダから次のように答える。「拳と足だけで攻撃していた。複数のチンパンジーが両手両足を使って殴りかかるのだ。襲われた方は内臓の損傷が原因で死んでいくようだ。まったく動けなくなり、逃げるチャンスなど皆無だ」。

 ミタニ氏によれば、ンゴゴのチンパンジーは何年もかかって面積約30平方キロの“領土”を少しずつ拡大してきた。「しかし、昨年の夏に新たに得た領土の面積はかなり大きく、驚くべきものだった」。夏に奪った土地は約6.4平方キロに及び、このことは、暴力行為を続ける目的が餌を得るための縄張り争いであることを示す。ンゴゴのチンパンジーは既に、新たに獲得した土地に生える貴重な果樹アフリカグワを餌とし始めたと同氏は指摘する。

 さらに、ほかの集団を侵略することにはもう1つのメリットがあると考えられる。ミタニ氏は、メスのチンパンジーは生殖が可能な年齢に成長すると生まれた集団を離れるという一般的な習性を説明した上で、「縄張りを奪われた近隣の群れ出身のメスが、ンゴゴのコミュニティーに移る可能性がある」と付け加える。自らの集団を離れる時期のメスにとっては、新たな土地を得たンゴゴの集団のほうが多くの資源を支配しているため、魅力的な移住先に映るのかもしれない。「メスの流入はまだ推測の段階だが、実際に起こり得る。今回領土を拡大したことで、今後ンゴゴのコミュニティーに移り住むメスが増えるかもしれない」。

 チンパンジーなどの霊長類を研究するアイオワ州立大学の人類学者ジル・プルーツ氏は、今回の研究を「大変興味深い」と評価する。しかし、今回の発見をすべてのチンパンジーに当てはめないよう注意を促す。なぜなら、チンパンジーの4亜種のうちアフリカ東部に生息する亜種ヒガシチンパンジー以外の亜種では、近隣のチンパンジーを殺すという行動は「まったくと言っていいほど観察されていない」からだ。

 同氏は、サバンナ森林地帯に生息するチンパンジーの観察を行っているセネガルで、電子メールによる取材に次のように答える。「ヒガシチンパンジー以外の3亜種を含むすべてのチンパンジーの行動に今回の研究を一般化することは適当ではないし、このような発見がヒトの攻撃性の考察にまで拡大解釈されがちであることを考えると、かなり危険だとさえ言える」。

 研究を率いたミタニ氏も、ヒトが争いを始める原因はチンパンジーの場合よりも複雑で多様であり、おそらくヒトの争う理由の解明にこの研究はほとんど役立たないということに同意する。むしろこの研究は、ヒトの協調行動の起源に光を当てるものだという。「我々が目撃した死者が出るほどの集団間の攻撃も、オス同士が連携して他者を攻撃するという意味では、本質的には協調性の現れといえる。我々が観察したチンパンジーはこの過程で、以前より多くの土地と餌を獲得しており、後にそれを集団内のほかのチンパンジーに再配分していた」。

 この研究は2010年6月22日発行の「Current Biology」誌に掲載されている。

Photograph by Michael Nichols, National Geographic

文=John Roach

  • このエントリーをはてなブックマークに追加