月の石を採集するアポロのバズ・オルドリン宇宙飛行士(1969年撮影)。

Photograph courtesy NASA
 2009年10月にNASAがロケットと探査機を月に衝突させ、月の表面に“かなりの量の”水が存在することが確認されたが、最新の研究によると、月の内部にはこれまで予測されていた量の少なくとも100倍の量の水が存在している可能性があるという。月には水が存在しないという説にとどめをさすことになるのだろうか。「月の内部に閉じ込められている水をすべて取り出したら、深さ1メートルの海で月面全体を覆うことができるだろう」と、今回の研究を率いたワシントンD.C.にあるカーネギー研究所の地学者フランシス・マッカビン氏は話す。

 同氏の研究チームは、昔アポロが月から持ち帰った石のサンプルと、アフリカの砂漠で発見された月起源隕石を再分析した。その結果、月の内部には「64ppbという量の水が存在することがわかった。これは従来の予測より2桁多い。あるいはもっとあるかもしれない」。

 研究チームは電子顕微鏡を用いて、薄くスライスされた月の石からアパタイトと呼ばれる鉱物の微細な結晶粒を採取した。月のアパタイトは、月の内部が高温のマグマで満たされていた数十億年前に形成されたと考えられている。研究チームは次に、二次イオン質量分析法と呼ばれる手法を用いて結晶粒を分析した。この手法は、イオンのビームを物体に照射し、その物体の表面で発生する二次イオンを分析するものだ。

 この過程で研究チームは大物に出くわした。水の存在を示す科学的証拠である水酸化物イオンである。「これまで月の鉱物の内部から水の痕跡が見つかったことはなかった」とマッカビン氏は話す。

 通常、水を含んだマグマの温度が低下するにつれて水はアパタイトに吸収され、水素原子と酸素原子が対になった水酸化物イオンの形で閉じ込められる。したがって、「水が存在したことの証拠となる天然の鉱物を探すならアパタイトを探せばよい。月の石に水が含まれていれば、最終的にアパタイトの中に閉じ込められるからだ」。

 とはいえ、月は水浸しというわけではなく、地球上で最も乾燥した砂漠より乾燥していると考えられている。しかし、今回の研究には参加していないマサチューセッツ工科大学(MIT)の惑星地質学者リンダ・エルキンス・タントン準教授によれば、この研究で検出された水の量は、研究者の間では大変な驚きをもって受け止められたという。「これまで推測されていた量よりずっと多くの水が月の鉱物から発見されたことに本当に驚いた。月自体が形成された時に初めから水が存在していたことを示している」。

 エルキンス・タントン氏によれば、月の水を宇宙船の水素燃料や月面居住基地の維持のために利用する可能性について様々な議論が交わされてきたが、今回の研究で算出された驚くほどの水の量をもってしても、おそらくコストに見合うだけの量を抽出するには足りないだろうという。

 しかし、今回発見された月の水が持つ本当の重要性は、月と地球の誕生と生い立ちについての学説に与える影響にあると同氏は言う。

 月の誕生について現在最も支持されている説は、45億年前に火星ほどの大きさの天体が地球に衝突して物質が地球の軌道上にまき散らされ、その物質が徐々に集積して月を形成したというものだ。また、月の誕生をモデル化するためにこれまで行われてきた主要なコンピューター・シミュレーションでも、月は地球の物質ではなく、地球に衝突した天体が粉砕されてできた物質のみから形成された可能性が高いことが示されている。

 しかし、このモデルには大きな問題点がある。月で発見された同位体の多くが地球のものと一致し、これまでに観測が行われた太陽系の他のどの天体のものとも一致していないのだ。これは、地球と月との間に“血縁関係”があることを物語っている。もし月が地球に衝突した天体の残骸からできているとすれば、なぜその天体には地球と同じ物質が存在していたのだろうか。

「そのような偶然が起きる確率は極めて低い。だからこそ、月の内部で水が発見されたことは、地球と月が実際にはどのような関係にあるのかというパズルを解くための実に重要な1ピースだと言える」とエルキンス・タントン氏は期待を込める。月の鉱物中の水を丹念に計測し、同位体比を地球のものと比べることによって、地球と月の水がどこから来たのかという謎が解決に近づくかもしれないと同氏は信じている。「これまでの定説をひっくり返すものになるかもしれない」。

 この研究は、「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌オンライン版で2010年6月14日に公開された。

Photograph courtesy NASA

文=Andrew Fazekas