イリエワニ、ボディーサーフで海を渡る

2010.06.08
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オーストラリアのヨーク岬半島で、引き潮の砂浜にじっととどまるイリエワニ。

Photograph by Sam Abell, National Geographic
 南太平洋に生息するクロコダイルの仲間イリエワニが“ボディーサーフィン”によって島々を渡っていることが最新の研究で確認された。この研究の立案には、テレビ番組「クロコダイルハンター」のホストだった故スティーブ・アーウィン氏も加わっていた。 最大の現生爬虫類であるイリエワニは、東はフィジーから西はインド東部まで、北は中国南部から南はオーストラリア北部に及ぶ地域の汽水域や淡水域に生息する。

 イリエワニはこの地域全体に散らばる複数の島で生息が確認されているが、ガラパゴス諸島のダーウィンフィンチ類のように、異なるワニの集団がそれぞれまったく別の種へと進化することはなかった。

 このことから、イリエワニが何らかの方法で島々を行き来し、それにより遺伝子プール(互いに繁殖可能な個体からなる集団)が全体として十分に混合された状態に保たれているものと推測できる。しかし、短距離の泳ぎは一流だが遠泳が得意とはいえないイリエワニがどのようにして海を渡っているかについては、これまでよくわかっていなかった。

 オーストラリアにあるクイーンズランド大学の生物学者ハミッシュ・キャンベル氏が率いる研究チームは2006年、アーウィン氏の支援と資金の一部提供を受け、この謎を解くための実験方法の開発を始めた。研究チームの一員であるクイーンズランド大学の動物学者クレイグ・フランクリン氏によると研究チームは、27頭のイリエワニに「小指ほどの大きさ」の音声発信器と、水温と水深を記録するセンサーを取り付けた。また、これらのワニの生息地であるクイーンズランド州の川には、発信器を付けた個体を追跡するための音声受信装置を設置した。

 1年間に及ぶデータ収集の結果、イリエワニは引き潮を利用し、河口の方向に流れる表面流に乗って10キロ以上の距離を移動することがわかった。流れが変化すると、川岸に上がるか川床にとどまって“サーフィン”に適した表面流が来るのを待っていた。

 研究チームはこの結果を踏まえて、イリエワニの外洋での行動に関してこれまでに得ていたデータを分析し直した。すると、海流を利用して100キロ以上の距離を“ボディーサーフィン”で移動するなど、外洋でも同様な行動をしていたことがわかった。オーストラリア北東部のヨーク岬半島沿いに約590キロの距離を25日間かけて旅した“クロコダイル・サーファー”さえ存在した。

 しかし、イリエワニがこれほど長い距離をサーフィンで進む理由については、チームも明白な結論に達していない。「生息地を変えるためではないと思われる。反復的なパターンは確認されていない」とフランクリン氏は言う。

 同氏によれば、イリエワニは交尾の相手や餌を探すために旅をしている可能性がある。特に、産卵のために海岸に登ってきたウミガメを捕食できる小さな島々を頻繁に訪れているようだという。

 旅の理由が何であれ、イリエワニに驚くべきナビゲーション能力が本能的に備わっているに違いないことを今回の研究は示していると同氏は話す。「長距離を旅する動物のほとんどは一方向に泳いでゆく。しかしイリエワニの場合は、A地点からB地点に到達するために、サーフィンで川から三角州、外海を経てさまざまな島へという経路全体を把握し、その通りに進まねばならない。この経路は一直線ではないので、非常に精巧なナビゲーション能力を持っているに違いない」。

 これはもちろん、イリエワニが出発する時点で特定の目的地を念頭に置いていると仮定した場合の話であり、この仮定が正しいかどうかはわからないと同氏は指摘する。しかし、イリエワニの行動から判断すると、その可能性はあるという。「短い距離しか泳がない時は流れに逆らって泳ぐこともある。しかし10キロ以上であれば、潮の向きが好都合になるまでわざわざ待っている。長い距離を泳ぐことにあらかじめ決めておいてから出発していると考えてよいのではないか」。

 アーウィン氏は、研究チームが実験方法の開発を始めてから数ヶ月後に亡くなった。今回の研究結果を知りたかったことだろうとフランクリン氏は思いをはせる。「アーウィン氏はたくさんの疑問を持っており、クロコダイルのことをもっとよく知りたいと心から望んでいた。そのため彼は、クロコダイルについて新しい発見をすることにすべてを賭けていた」。

Photograph by Sam Abell, National Geographic

文=Rachel Kaufman

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