カタツムリは覚醒剤で記憶が長期化

2010.06.03
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植物の枝先を這うヨーロッパモノアラガイ(資料写真)。

Photograph by Frank Greenaway, Getty Images
 俗に“スピード”とも呼ばれる覚醒剤を摂取したカタツムリは、足が速くなるわけではないが、覚醒剤で“ターボ”がかかった脳は学習能力が上がり記憶が通常より長続きするという研究が発表された。 研究チームは、ヒトが薬物に依存する原因となる、記憶に関連する脳のプロセスを研究するために、覚醒剤の一種アンフェタミンを水生のカタツムリであるヨーロッパモノアラガイに与える実験を行った。

 ヒトは覚醒剤を摂取すると多幸感や自尊感情の高まりといった興奮状態に陥り、そのために薬物への依存性が著しく高まる。このような依存性は、摂取時の高揚感が忘れられなくなる強烈な“病理学的記憶”と結びついているのではないかと考えられている。研究の共著者でワシントン州プルマンにあるワシントン州立大学の生化学者バーバラ・ソーグ氏は、「カタツムリを中毒にしようとしたわけではない。脳のプロセスのごく初期の段階で覚醒剤によってどのようにして記憶力が向上するかを探ろうとしたのだ」と話す。

 ヨーロッパモノアラガイには、体の仕組みが複雑な生物が持つような記憶力はないが、経験を通して学ぶ能力が備わっている。

 ソーグ氏の研究チームは、覚醒剤を混ぜた水の入った水槽と普通の水の入った水槽のそれぞれに複数のヨーロッパモノアラガイを入れた。このカタツムリは水中では主に皮膚で呼吸するが、水中の酸素が薄くなると水面上に呼吸のための管を伸ばして酸素を取り込もうとする。低酸素状態となった水中のカタツムリが管を伸ばしたところで、水面上に突き出された管を棒で突いてカタツムリを刺激し、管を伸ばさないように“調教”した。

 覚醒剤が入っていない水槽のカタツムリは、“調教”によって学習した長期記憶をわずか数時間しか保持しなかったと思われ、それ以降はまた管を伸ばし始めた。一方、覚醒剤が混ぜられた水の中のカタツムリは24時間経った後も棒で突かれた記憶を保持し、管を閉じていた。

 このような“覚醒剤による記憶”が持続することは特に驚くことではないとソーグ氏は話す。「アンフェタミンは集中力を高める目的でヒトにも投与される。例えば、アンフェタミンの誘導体であるリタリンは注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療薬として使用されている」。

 カタツムリの脳は構造が単純なため、この実験結果を直ちにヒトに当てはめるのは早計だとソーグ氏は強調するが、ヒトとカタツムリの脳は生化学的には多くの共通点がある。

 研究の共著者でカナダにあるカルガリー大学のケン・ルーコウィアック(Ken Lukowiak)氏によると、例えばカタツムリの学習行動と記憶行動を制御する単一の脳細胞を研究すれば、カタツムリとヒトの両方の脳の機能を知る手掛かりになるかもしれないという。

「次の段階では、その単一の細胞の内部を観察して、覚醒剤を投与されたカタツムリが学習する際にその細胞でどのような化学的な変化が起きるかを調べようと思う」とソーグ氏は話す。

 この脳の“暗号”を解読することで、ヒトの薬物中毒の改善に役立つ治療法がいつの日か見つかるかもしれない。「薬物依存は記憶に関係したプロセスが原因だと我々は考えている。だとすれば、どうすればそのような記憶が消せるだろうか。どうすればその記憶だけを遮断したり消し去ったりできるのだろうか」。

 この研究は「Journal of Experimental Biology」誌で2010年5月28日にオンラインで公開された。

Photograph by Frank Greenaway, Getty Images

文=Ker Than

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