偶然捕獲された成体のダイオウホウズキイカを調べる船長のジョン・ベネット氏(2007年撮影)。

Photograph courtesy Ministry of Fisheries via Getty Images
 船を襲う怪物“クラーケン”のような恐ろしい海獣の伝説のもとになったのは、強力なくちばし、吸盤だらけの触腕、それにカミソリのように鋭いかぎ爪が並ぶ腕を持つダイオウホウズキイカ(写真)だったのかもしれない。 しかし、ダイオウホウズキイカの恐ろしい評判は徐々に覆されつつある。その理由の1つは、実はこのイカが、ぶよぶよした体でゆっくり漂っているだけだということが新しい研究によってわかったためだ。

 ダイオウホウズキイカの新陳代謝システムについて研究が行われたのは今回が初めてだ。この研究によると、彼らがあてもなくゆっくり漂うだけの生活を送る理由は、生きるために必要なエネルギーの量に関係しているという。この結論は、2008年に捕獲されたダイオウホウズキイカを解剖した際にまず導き出された見解と一致している。

「ダイオウホウズキイカがぶよぶよした柔らかい動物であることはすでにわかっていた」と、ポルトガルにあるリスボン大学の海洋生物学者ルイ・ロサ氏は話す。

 今回の研究で得られた新しいデータから、ダイオウホウズキイカが「活発に動き回る恐ろしい捕食者ではなく、非常にゆっくりしたペースで生活を送る捕食者」であることが判明したという。

 世界最大の無脊椎動物であるダイオウホウズキイカの正体は謎に満ちている。彼らは南極水域の水深約2000メートルの深海に生息し、自然で生きている状態を観察されたことが一度もない未知の動物なのだ。

 しかし、2007年に体長10メートルの成体のダイオウホウズキイカが南極沖で偶然捕獲され、その調査結果から、この深海の巨大生物に関する最初の手がかりが得られた。

 今回ロサ氏のチームは、同じく冷たい海に生息し、ダイオウホウズキイカより小さい近縁種のイカの生理と生態を研究した。そしてその調査結果をダイオウホウズキイカの体の大きさに当てはめることで、ダイオウホウズキイカは新陳代謝率が相対的に低い、つまり食べ物から得た栄養をエネルギーに変換するのに時間がかかるという結論を導き出した。

 この結論に、ダイオウホウズキイカの血液が冷たいことと、暗く低温の場所を住み処にしていることを加味すると、彼らはおおむね動きが遅く、必要な食物の量も非常に少ないことが予想される。

 ダイオウホウズキイカは「自ら動かずに漂っている」捕食者で、たまに近くに来た魚を捕まえたり、待ち伏せして襲ったりしながら細々と暮らしていると研究チームは考えている。

 実際、体重500キログラムの成体のダイオウホウズキイカは、主食とされる体重5キロほどのマゼランアイナメを1匹食べるだけで200日間生き延びられると研究チームは推測している。「このライフスタイルを維持するのに、それほど多くの食物を消費する必要はない」とロサ氏は話す。

 全体的に見ると、ダイオウホウズキイカが必要とするエネルギーの量は、同じく南極水域に生息する巨大な捕食者であり、温血動物であるクジラの300~600分の1である。

 また、ダイオウホウズキイカがそれほど活発には獲物を追いかけないとみられることから、大きな皿ほどのサイズがある彼らの目は、マッコウクジラやオンデンザメなどの捕食者から逃げられるように適応した結果なのではないかとロサ氏は考えている。

 今回のダイオウホウズキイカの研究は、「Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom」誌オンライン版で4月に発表されている。

Photograph courtesy Ministry of Fisheries via Getty Images

文=James Owen