イギリスの海で漁業資源が激減

2010.05.13
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20世紀初頭、イギリス、グリムズビーの港の風景。

Image courtesy Callum Roberts
 この1世紀ほどで、トロール船は高性能エンジンや魚群探知機、また、軽量の網や巨大な冷凍庫を搭載するようになった。しかし、ビクトリア朝時代の漁船は現代のハイテクなトロール船より多くの魚を捕っていたのだ。いまや漁業に本当に必要なのはタイムマシンかもしれない。 最新の研究によると、現在のイギリスの海域で底引き網を引くトロール船は、17倍の労力を注がないと、ビクトリア朝時代の帆船型の底引き網漁船と同程度の漁獲量は実現できないという。

 この研究では、漁業を効率化させたさまざまな革新技術について調べるため、“漁獲力(fishing power)”という新たな尺度が用いられた。

 イギリスの漁獲量に関する記録を分析した結果、1889年以降、1漁獲力あたりの漁獲量が94%減少していることがわかった。

 トロール船が狙うタラなどの海底に生息する魚の数が94%減少したわけではないが、イギリスにあるヨーク大学の大学院生で、今回の研究を率いたルース・サースタン氏は、「結果的にそう言っても何もおかしくはないと思う」と電子メールでコメントしている。

 またサースタン氏は電話取材に対し、「漁船がはるかに高性能化したのに漁獲量が減少しているとは、本当に驚くべきことだ」とも述べている。

 サースタン氏によると、この数字は1つの種だけでなく海洋生態系全体に関わるため、なおさら衝撃的だという。英国の海底は大規模な変化の真っただ中にあり、例えば小魚や甲殻類が爆発的に増加し、上位の捕食動物たちに取って代わる可能性もあるという。 ただし、幸か不幸か、漁業が衰退しているのはイギリスだけではない。

 アメリカのニューハンプシャー大学で海洋化学の教授を務めるアンドリュー・ローゼンバーグ氏は第三者の立場で、「ほかの生態系に関する研究結果もまったく同じだ」と話す。

 米国海洋大気庁(NOAA)で漁業の責任者を務めたこともあるローゼンバーグ教授は、「大西洋の西側や北海、バルト海はもちろんのこと、地中海はもっと深刻かもしれない」と言い添えている。

 底引き網漁でイギリスの港に水揚げされた魚の量は、信頼できる記録が残っている1889年から20世紀半ばにかけて、増加の一途をたどっていた。オンラインジャーナル「Nature Communications」誌に5月4日付で発表された今回の研究によると、その間、漁船は大型化し、技術の進歩が大幅な効率化を実現したという。

 ところが、第二次世界大戦後、高性能な漁船開発への投資はますます増えていたにも関わらず、イギリスでのトロール船による漁獲量は減少に転じた。おそらく、原因は乱獲だ。

 例えば現在、イギリス沖で操業するトロール船の年間漁獲量は、1889年の帆で進むトロール船のおよそ半分だという。漁獲量がピークに達した1938年を基準にすると、4分の1以下まで減少している。

 1889年の時点で、イギリス沖での底引き網漁は何世紀もの歴史があった。今回の研究を率いたサースタン氏は「当時既に、イギリス海域の漁業資源は減少傾向にあり、そのことは認識されていた」と話す。

 事実、1889年に漁獲量の記録が開始されたきっかけは、漁師たちが漁業資源の減少を心配していることを受け、公的な調査委員会が2つ立ち上げられたことだった。

 サースタン氏らの研究によると、イギリスでトロール船の漁獲量が急激に落ち込み始めたのは1960年代だという。欧州連合(EU)が共通漁業政策(CFP)を正式に実施する20年前のことだ。CFPはヨーロッパの漁業が現在のような状態になった原因として、漁師たちからしばしば批判されている。

 ただ、漁獲量の激減が始まった時期が1960年代だからといって、その20年後に実施されたCFPが責任を免れるわけでもない。

「CFPが実施されてからも、漁業資源は減り続けている。つまり、資源を回復する役割はほとんど果たしていない」とサースタン氏は指摘する。

 業界団体、アメリカ漁業協会の広報担当者ギャビン・ギボンズ氏によると、漁業の崩壊は漁船の効率化ではなく海洋生態系の管理の甘さが原因だという。

「必要なのは、漁業資源の現状や繁殖、持続可能な漁獲量についてよりよく理解し、正しい方向に進むことだ」とギボンズ氏は指摘する。「そうすれば持続的に魚を捕ることができるようになるはずだ」。

Image courtesy Callum Roberts

文=Brian Handwerk

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