オゾンホールに縮小の兆し

2010.05.04
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衛星データが示す2009年秋の南極上空に開いたオゾンホール。

Image courtesy NASA
 25年前の発見以来、オゾンホールは地球環境への一大脅威と考えられてきた。しかし世界規模で展開されている空前のオゾン層回復策が功を奏し、現在は縮小傾向にあるという。気候変動も大きな環境問題の1つだが、同様に抑え込める望みはあるだろうか。しかし、オゾンホールの縮小が地球温暖化を加速しているとの話も聞こえてくる。 オゾン層は15~30キロ上空に自然形成されるオゾン(O3)の層で、太陽光に含まれる短波紫外線のほとんどを吸収し、地表への到達量を抑制する働きを持つ。

 紫外線は皮膚ガンや白内障の原因となるなど人体に悪影響を及ぼす。また、魚類や甲殻類、カエルのほか、海洋食物連鎖の底辺をなす単細胞植物プランクトンの生殖にも問題を引き起こす可能性がある。

 オゾンは自然に生まれる分子だ。太陽光によって上層大気中の酸素分子(O2)が2つの自由な酸素原子(O)に分解され、その酸素原子が未分解のO2と結合するとオゾン(O3)になる。しかしオゾンは不安定な分子であり、空気中の微量な元素により容易に分解されてしまう。

 1920年代に発明され、冷蔵庫やヘアスプレーなどで大量に世に出回ったクロロフルオロカーボン(CFC)が、オゾン層破壊の主原因と考えられている。数十年単位で大気中に滞留し、大気圏上層部にまで達するからだ。大気の希薄な上層部でCFCが紫外線を受けると、分子結合が壊れて塩素原子が放出される。この塩素原子が酸素原子を“横取り”し、オゾン分子を破壊するのである。

 オゾン濃度の減少とCFCの因果関係は、1970年代に初めて指摘された。1985年5月には英国南極観測局(BAS)が「南極上空のオゾン層に巨大な穴を発見」と発表し、世界を震撼させた。実際には“穴”というより、1970年代以降の春期に南極上空でオゾン濃度が激減し、オゾン層が極めて薄くなる現象を指している。

 原因がCFCだと判明したのは、南極のハリー研究基地での収集データのおかげだった。南極地方に暗く厳しい冬が訪れるたび、大量のCFCが大気に蓄積される現象が起きていたのである。春を迎えて日が長くなると、紫外線を浴びたCFCから大量の塩素原子が放出され、オゾンが65%も減少していた。

 有名なモントリオール議定書は、この憂慮すべき発見を受けて1987年に採択された。CFCの段階的な廃止によるオゾン層の回復を目的としたこの条約は、2009年9月に最後の東ティモールが批准し、国連の全加盟国が賛同する初の環境条約となった。それだけに効果も大きく、2080年には1950年代の水準までオゾン層が回復するとの予測も出ている。

 見通しの立たない環境問題として地球温暖化がある。その元凶、温室効果ガスの排出規制が叫ばれているが、オゾンホール対策の成功は参考になるのだろうか。「多分」という専門家もいるが、2つの問題には大きな相違点がある。

 1980年代、オゾンの減少に端を発する健康被害に世界中が直面し、CFC使用禁止の機運が高まった。「皮膚ガンや白内障への恐怖心も手伝って、オゾンホールの危険性はたちどころに浸透した。しかし急速な温暖化の進展がもたらすと言われる実害は、すぐには理解が広まらない」と、BASのジョナサン・シャンクリン(Jonathan Shanklin)氏は語る。

 CFCの代替品製造を迫られた化学薬品メーカーもわずかなコスト負担で済んだため、各国政府は経済や国民の暮らしを混乱させずに有効な対策を打ち出せた。しかし地球温暖化は、各国の意見が食い違う政治的な問題へと発展してしまった。シャンクリン氏も、「解決策には代替エネルギーや省エネなどさまざまあるが、どれも経済的・地政学的な混乱を招く恐れがある」と指摘している。

 成功を収めつつあるオゾン層の回復策だが、その副作用を指摘する科学者もいる。温室効果ガスでもあるオゾンが増加すれば、少なくとも南極地方の温暖化が加速するのではないかと危惧しているのだ。「地球規模では何とも言えないが、南極地方が影響を受ける可能性は高い。大部分で気温上昇が観測されるのではないか」とシャンクリン氏は推測する。

 イギリスにあるリーズ大学のケン・カースロー(Ken Carslaw)氏は、オゾン層回復に起因する南極温暖化を示唆した研究の共著者である。しかし同氏は、オゾンの増大による温暖化進展は単なる1副作用にすぎないと考えており、「人為的にオゾン層に穴を空けても何も解決しない」とコメントしている。

Image courtesy NASA

文=Brian Handwerk

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