精子は“兄弟”認識、群れで卵子目指す

2010.04.22
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群れになって泳ぐハイイロシロアシマウスの精子細胞。紫外線を当てると緑色に光るように染められている。

Image courtesy Heidi Fisher
 乱婚型のマウスは、同じオスの精子同士で群れを作ることで卵子に向かう速度を上げているという最新の研究が発表された。 メスの体内に入った精子細胞は、他のオスの精子の中から自分と同じオスの精子を判別し、頭の部分にある器官によって文字どおり“手を取り合う”。こうして精子は自転車レースの選手たちのように集団になって水の抵抗を避けることで“エンジン”の出力を高め、単独の時より速く泳げるようになると、ハーバード大学フークストラ研究室の進化遺伝学者ハイディ・フィッシャー氏は説明する。

「1つの細胞に過ぎない精子にこのようなことができるとは、実に驚くべきことだ。精子はこれまで、素早く動く尾を持ったDNAの袋だと考えられてきた。しかし今回の実験で、精子が複雑な組織を構成できることがわかった」。

 驚くべきことに、精子細胞の認知能力は「信じられないほど洗練されている」。実験では、非常に近い血縁関係にある別のオスの精子が混ざった状態でも、精子は自分と同じオスの精子を区別できたという。

 フィッシャー氏と共同研究者のホピ・フークストラ氏が研究したのは、生涯に渡って一夫一妻を貫くハイイロシロアシマウス(Peromyscus polionotus)と、その近縁種である乱婚型のシカシロアシマウス(Peromyscus maniculatus)だ。シカシロアシマウスのメスは1分間に複数のオスと複数回交尾する。

 研究チームは、それぞれの種の複数の個体から精子を抽出し、2つのサンプルを4通りの組み合わせで混合した。例えばある実験では、血縁関係のない2匹のシカシロアシマウスから抽出した精子を混合し、別の実験では、“兄弟”関係にある2匹のシカシロアシマウスの精子を混合した。精子はオスとメスの染色体の両方を運ぶ。

 またすべての実験で、一方のオスから抽出した精子は紫外線を当てると緑色に光るように染め、もう一方のオスの精子は赤色に光るように染めた。

 実験の結果、どちらの種の精子もグループを形成し、単独で泳ぐよりもはるかに速く泳いだ。

 しかし、シカシロアシマウスの精子を使ったすべての実験で、同じオスの精子同士が群れを作ることが明確に確認された。ただし、精子細胞がお互いをどのように認識するのかはわかっていない。研究チームは論文の中で、同じオスの精子はある種のタンパク質を頭部から出し、それが個体を識別する標識の役割を果たしているという仮説を立てている。

 さらに注目すべきことは、この協力態勢が続いたのは精子が卵子に到達するまでのわずか2時間足らずだったことだとフィッシャー氏は指摘する。誰が卵子の殻を破るのかをめぐって仲間の精子が競争相手となった時、兄弟愛は終わるという。

 これとは対照的にハイイロシロアシマウスの精子は、どのオスの精子かに関係なくランダムに群れを作った。

 この研究成果は、競争が精子の行動を進化させるとする長年の仮説を裏付けるものだとフィッシャー氏は話す。

 イギリスのシェフィールド大学で精子の形態と機能の進化について研究するロンダ・スヌーク氏は、今回の研究を「きわめて興味深く、これまで議論されてきた考え方を広く裏付けるものだ」と評価する一方で、この研究の限界を2点指摘する。

 まず、メスのマウスの体内で精子を観察する方法がまだ確立されておらず、生殖器官の中とペトリ皿の中とでは精子の行動が異なる可能性がある。

 また、今回の研究では雑婚と単婚のマウス1種類ずつしか対象としていない。哺乳類は雑婚種が95%を占めるが、マウス以外でも同じオスの精子同士で群れを作るのかどうかはわからない。例えば、ヒトの精子が群れを作るという証拠は存在しない。

 しかし全体的に見れば、今回の研究は蛍光イメージング技術の最近の進歩の目覚しさを示しており、この技術によってどの精子がどのオスのものなのかを初めて区別できるようになったと同氏は付け加える。

 この研究は「Nature」誌オンライン版で2010年1月20日に公開された。

Image courtesy Heidi Fisher

文=Christine Dell'Amore

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