酸素不要の多細胞生物を初めて発見

2010.04.19
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地中海の海底で発見された複数の新種の多細胞生物。酸素がなくても生きられるという。

Diagram courtesy Roberto Danovaro
 地中海の海底で発見された新種の生物が、酸素がなくても生きられることが多細胞生物として初めて確認された。 これまで、酸素のない状態で長期間生存できるのはウイルスや単細胞の微生物だけと考えられてきた。しかし、調査隊のリーダーでイタリアのマルケ州立ポリテクニック大学に所属するロベルト・ダノバロ氏によれば、最近行われた調査で発見された3種類の新種の多細胞生物は、酸素のない深海で問題なく生息していたという。

 同氏は声明の中で次のように述べる。「これまでにも酸素のない水域で多細胞生物の死骸は発見されていたが、(死んだあとで)酸素のある上層の水域から沈んだものと考えられていた。しかし、今回の調査で発見した生物は(酸素のない水域でも)生きており、卵を持つものまでいた」。

 これらの新種はそれぞれ体長が1ミリに満たない小さなクラゲに似た微生物で、地球上で最も過酷な環境の1つである、塩分濃度が極端に高い地中海の海底の堆積物の中で繁殖しているようだ。

 ヒトを含む多細胞生物のほとんどは細胞の内部にミトコンドリアという器官を持つ。ミトコンドリアは、酸素を使って栄養分をアデノシン三リン酸(ATP)と呼ばれるエネルギー分子に変える。今回発見された新種は、酸素なしでATPを作ることができるようにミトコンドリアが変異したハイドロジェノソームを持っていると考えられる。これまでハイドロジェノソームは単細胞生物の体内でしか確認されていない。

 スロバキアにあるコメンスキー大学の生化学者で、この研究の解説記事の共著者であるマレク・メンテル氏は、これらの新種の共通の祖先である何億年も前の生物が、少なくとも短時間は酸素なしで生きる能力を持っていた可能性があると考えている。まず大気中で、次に水中で酸素が増加するにつれて、生物は2つの系統に分かれ、一部を除くほとんどの生物が酸素の豊富な新しい環境に適応した。海中の酸素の濃度が高まると、生物はエネルギーを作るための化学物質を豊富に得られるようになり、「大型化し、さらに陸上生活に適応していった」。なお、同氏は今回の調査チームには参加していない。

 また、プエルト・リコ大学アレシボ校の宇宙生物学者で今回の研究に参加していないアベル・メンデス氏は電子メールでの取材に対し、「この研究は地球外生命体の探査にも大きな意味を持つ」と答える。地球以外の太陽系の惑星で複雑な構造の生物が見つかる可能性があると考える人はほとんどいない。しかし、氷でできた木星の衛星エウロパは地下に海があると考えられており、今回の新種が発見された海底に似た、低温で塩分濃度が高く酸素もない環境が存在するかもしれないと同氏は推測する。

Diagram courtesy Roberto Danovaro

文=Ker Than

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