最古のチリのミイラ、死因は砒素中毒

2010.04.19
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南米チリの砂漠地帯で発見された古代チンチョーロ人の子どものミイラ。

Photograph courtesy B. Arriaza
 チリ北部の荒涼とした砂漠地帯で世界最古とみられるミイラが発見された。毒水を摂取して死亡した者もいたと考えられている。チリ北部に位置するカマロネス渓谷の飲料水には高濃度の砒素が含まれている。ミイラの毛髪分析から判断して、かつて近傍の沿岸部に居住していたチンチョーロ人は、少なくとも7000年前から砒素中毒で苦しんでいた可能性がある。「当時の人々はカマロネス特有の砒素濃度の高い水を毎日飲んでいたようだ」と、同国タラパカ大学の研究責任者ベルナルド・アリアザ(Bernardo Arriaza)氏は話す。

 無味無臭かつ無色の鉱物に彼らは気付きようもなかったが、砒素の長期的な摂取は人体に深刻な影響を及ぼす。とりわけ皮膚や肺、膀胱、または腎臓の各臓器が癌に侵されていた可能性が高い。

 砒素中毒の犠牲者はミイラ処理を施されることがあった。取り除いた内臓の代わりに土やヨシを詰めていたという。チンチョーロ文化のミイラ処理は約7000年前に始まり、遺体保存を実践していた最古の社会とされている。年齢・階級は不問だったようで、子どもや胎児のミイラも確認されている。

 特に胎児や新生児は砒素の害を受けやすかったとアリアザ氏は考えている。最初期のミイラは胎児や幼児で、遺体保存の風習は高い流産率から生まれた可能性もある。

 しかし砒素の脅威は昔話ではない。カマロネス渓谷の飲料水には、現在も世界保健機関(WHO)が定めた安全基準の100倍に達する砒素が含まれている。この汚染のため、地域住民は飲料水の外部調達を余儀なくされている。

 アリアザ氏らの研究チームは、乾燥したカマロネス渓谷の5カ所で発見されたミイラ46体をサンプルに毛髪分析を実施した。紀元前約1700年以降に埋葬されたとみられる一部の個体は、乾燥した気候のおかげで保存状態が良かった。

 分析の結果、7000年前から600年前に埋葬されたチンチョーロ人ミイラの9割から、毛髪1グラムあたり1マイクログラム(100万分の1グラム)以上の砒素が検出された。これでも健康被害が十分生じる濃度だが、発掘エリアによってはこのレベルをはるかに上回る砒素が検出されている(「Journal of Archaeological Science」誌、および「Microchemical Journal」誌に掲載)。

 カマロネス地域の岩盤や周辺火山の斜面には、砒素などの金属が豊富に含有されている。問題は春先の雪解け水だ。有毒金属が洗い流され、下流住民の水源河川に注ぎ込むのである。体内に取り込まれた砒素は毛髪やツメを構成するケラチン組織に蓄積され、今回のミイラのように毛髪を調べれば、砒素中毒の過去を暴くことができる。

「先コロンブス期(紀元1000~1534年)の彼らがどのような一生を送ったかその一端も明らかになった」とアリアザ氏は話す。例えば、低レベルの汚染地域で発見されたミイラからも驚くほど高濃度の砒素が検出された。危険な地域で生まれ育ち、100キロも離れた場所で亡くなったことになる。結婚して移住したのかもしれない。

Photograph courtesy B. Arriaza

文=Brian Handwerk

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