月の表面にも小さな磁気圏

2010.04.15
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
月のライナーガンマ域に見られる複数の白い渦模様。

Image courtesy NASA
 月面で小規模な磁気圏が初めて観測された。この磁場の“泡”は、過酷な太陽放射から月の表面の一部を守る働きをしているという。 この小磁気圏は太陽光が1日の半分しか到達しない月の赤道付近にあるため、人類が再び月に行ったとしても太陽光で発電できる電力に限りがある。しかし、ここより着陸に適した場所にも別の磁気圏が存在する可能性を示す証拠が見つかっている。そのような場所なら宇宙飛行士を放射線からある程度保護できそうだ。

 地球は磁気圏に全体を覆われている。これは、固体の鉄でできた地球の内核が液体の外核の内部で回転することによって磁気ダイナモが作り出され、地球全体に磁場が生じるためだ。

 地球の磁場は地表から最大7万8000キロの高さまで広がっており、太陽から絶え間なく降り注ぐ荷電粒子である太陽風を捉え、その向きを変えている。磁場がなければ通常の生命体は焼き尽くされてしまうだろう。

 太陽活動が急激に活発化すると地球の磁気圏の許容範囲を超えることがあり、その場合には荷電粒子が大気に流れ込んで大気と反応する。「その結果がオーロラだ。私は極北に住んでいるので見られるよ」と、研究の共著者でスウェーデン宇宙物理研究所の上級研究員マーティン・ウィーザー氏は話す。

 これに対し、月全体を覆う磁場は存在しないため、月面は太陽から放出される荷電粒子を常に浴びている。

 しかし、インドの月探査機チャンドラヤーン1号から送られたデータによって、月の裏側の北東部のごく狭い地域が小規模な磁気圏に覆われていることが確認された。

 ウィーザー氏の研究チームが2009年6月に測定したところ、この小磁気圏の直径は約360キロだった。この磁気圏は小川の中の石のような働きをしており、磁気圏を取り巻く環状の部分で太陽風の速度が上がり、厚さも300キロへと増しているという。ただし、磁気圏の中心部の磁場は弱く、地球の赤道付近を覆う磁場の300分の1、地球の極付近の磁場の600分の1しかない。

 小磁気圏ができた原因は不明だが、大きな衝突クレーターとは反対側の月面に磁場が現れる傾向があるとの指摘もある。

 ウィーザー氏は電子メールでの取材に対して次のように答える。「衝突クレーターと磁場を結びつける理論がある。それは、大きな隕石などの衝突によって生じたプラズマ(荷電ガス)が月の周囲を漂い、プラズマ波が月の反対側で出会うと集まって磁場になるというものだ。しかし、このパターンにあてはまらない磁気異常もあり、その説明はもっと難しい」。

 月に小磁気圏が存在することを示唆する観測結果は過去にもあったが、チャンドラヤーン1号のデータはこれまでで最も明確にそれを示している。これは、チャンドラヤーン1号が月面の至近距離で粒子の動きを“目撃”できたためだ。

 同様の小磁気圏が月の別の場所にあれば、月面に見られる白い“渦模様”(写真)の謎を解明できるかもしれないとウィーザー氏は期待する。月の土壌は太陽放射が当たることで徐々に色が暗くなるが、白い渦のある領域は磁気圏によってこうした影響から保護されている可能性がある。

 また同氏によると、月で初めて小磁気圏が発見されたことで、月よりも小さな天体や、さらには小惑星でも磁気圏が見つかる可能性が出てきたという。小規模な磁気圏であっても、ほとんどの小惑星はそれよりさらに小さいため、「そうした磁気の“泡”の中に小惑星はすっぽりと入ってしまう。磁場が十分に強ければ、小惑星の進化の過程を一変させることも考えられる」。

 小惑星の進化の解明が進めば、太陽系の誕生についての理解も深まると同氏は指摘する。小惑星には大気がないため、ほかの天体で過去の地質の痕跡を変化させるような侵食作用をほとんど受けない。

「したがって、小惑星の方が原始の太陽系の状態にはるかに近いと考えられる」と同氏は語る。太陽風が小惑星に与える影響と、磁気異常がそこで演じる役割を明らかにすることが、謎を解明する重要な鍵となる。

「地質時代ごとの小惑星の地表の変化が解明できれば、それが何であれ、小惑星に対するわれわれの常識を塗り替える可能性がある。そうなれば、太陽系の形成と進化に関する常識も改められるかもしれない」。

Image courtesy NASA

文=Anne Minard

  • このエントリーをはてなブックマークに追加