人間と猿人それぞれの特徴を併せ持つアウストラロピテクス・セディバ。

Photograph courtesy Brett Eloff
 新たに発見された200万年前の人類の祖先の化石、“アウストラロピテクス・セディバ(Australopithecus sediba、セディバ猿人)”。研究チームによると、猿人に近いアウストラロピテクス属と、最初期のヒト属(Homo)との間をつなぐ重要な種の可能性があるという。 今回の研究チームのリーダーでヨハネスバーグにあるウィットウォータースランド大学のリー・ベルガー氏は、研究成果の掲載誌「Science」(2010年4月8日発行)で、「初期の人類としては、これまで確認されたことがない特徴がある」とコメントしている。

 南アフリカ共和国の地下に広がる洞窟で発見された2体の化石は、年齢30歳前後の女性と8~13歳の少年と推定されている。2人の血縁関係は不明だが、ほぼ同時期に洞窟内の穴に墜落死したようだ。穴の底にはサーベルタイガーなどの捕食動物の獣骨も散乱していたという。

“セディバ”は南アフリカのソト語で「泉」を意味し、現生人類の祖先である可能性を研究チームは報告している。ただしベルガー氏は、別の可能性にも期待しているという。

 同氏は古代エジプトの象形文字の解読に道を開いたロゼッタ・ストーンを例にして、「これは私と同僚の考えだが、セディバはヒト属の謎を解明する重要な手掛かりを提示してくれるかもしれない」とコメントしている。

 最大でも身長1.2メートル程度と見られるセディバには、ホモ・ハビリスのような初期人類に分類できる重要な特徴が数多くある。長い足や骨盤の筋肉などの下半身を備え、優れたエネルギー効率の歩行や走りが可能だったのではないかと研究チームは述べている。また、小さな歯と現生人類に似た鼻の形も大きな特徴であるという。さらに保存状態が極めて良好だった頭蓋骨からは、右脳、左脳の形が人間と同じように不揃いだったとわかる。

 現在は顔の復元中で、「あまりにも人間らしいセディバに、きっと多くの人々が驚くことだろう」と、ベルガー氏は4月7日の記者会見でコメントしている。

 しかし、ここまで類似点があるにもかかわらず、なぜ研究チームはセディバをヒト属に分類しないのだろうか。

 それについて同チームは、セディバにはアウストラロピテクス属に似た特徴もあり、猿人に分類せざるを得ないと考えているという。例えばアウストラロピテクス属と類似する特徴として、脳が極めて小さい点が挙げられる。原始的な手首と長い腕という木登りに適した猿人の特徴も兼ね備えている。

 多くの人類学者たちも興奮を隠せない様子だ。だが、セディバを先史時代の猿人種と現生人類の間をつなぐ種とする研究チームの考えには、疑問の声も上がっている。

 ジョージ・ワシントン大学の人類学者バーナード・ウッド氏は、「アウストラロピテクス属とヒト属をつなぐ有力な証拠はほとんどない」と指摘している。同氏は今回の研究には参加していないが、「セディバは、われわれが予想していたヒト属の祖先と一致しない」と話している。例えば、猿人類そっくりの非常に長い腕だ。またセディバの身体は最初期の人類の祖先のように直立歩行に適していないという。

 さらに同大学の人類学者ブライアン・リッチモンド氏は、178万~195万年前のセディバは、ヒト属の祖先にして単純に”若すぎる”と主張している。同氏は230年前のホモ・ハビリスを念頭に置いて、「50万年近くも遅れて登場したセディバはヒト属の祖先と断定できないだろう」と述べている。

 ベルガー氏は、別のアウストラロピテクス属に近い可能性を主張している。セディバの骨格は木登りに向く特徴を備えているからだ。「セディバは、ヒト属へと進化する前の段階の種だ」と同氏は説明する。

 年代について同氏は、今後の研究でセディバがさらに数十万年溯ると予想しているという。初期のホモ・サピエンスの祖先として十分考えられる年代ということになる。「セディバはある時間の断面に存在していた。彼らが種の最初、または最後の生き残りというわけでもない」と同氏は話している。

 アメリカ、オハイオ州にあるケース・ウェスタン・リザーブ大学のスコット・シンプソン氏は、「今回発見された化石は極めて重要だ。あらゆる議論のきっかけになるだろう」と述べている。「疑問を一刀両断に解決する答えなどありはしない。新たな観点を示してくれたセディバについて、長いディスカッションが交わされることになる」。

Photograph courtesy Brett Eloff

文=Ker Than