運転と携帯を同時にこなす人は稀に存在

2010.04.05
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離陸の準備をするカナダ沿岸警備隊のパイロット。彼も“スーパータスカー”なのだろうか。

Photograph by Pete Ryan, National Geographic Stock
 携帯電話をかけるなど別のことをしながら運転すると、ほとんどの人がうまく運転できないことは、既に多くの研究で明らかになっている。その一方で、複数の作業を同時に行っても、いつもと同じか、いつもよりうまく作業をこなせる“超人的”な能力の持ち主が少数ながら存在することが新しい研究で判明した。 研究によれば、このような“スーパータスカー”は約40人に1人の割合で存在するという。この発見により、複数の情報の流れを人間の脳がどのように処理するのかにについての新しい研究が数多く展開する可能性がある。

 スーパータスカーの存在は「一見すると従来の認知理論に反しているように思える」と、研究の共著者でユタ大学の心理学者ジェイソン・ワトソン氏は話す。これまでの理論では、人間の脳は一度に1つの作業にしか能動的に注意を向けることができないとされていた。

 今回の研究で、ワトソン氏の研究チームは200人を対象に車の運転シミュレータを使った実験を行った。被験者はまず注意をそらせるような障害を受けずに運転し、次に算数の問題を解いたり携帯電話で伝えられた言葉を覚えたりする作業を行い、次にこの2つの作業を同時に行った。

 ほとんどの被験者は、運転と問題の解答の両方に同時に取り組もうとすると、どちらの作業もうまくできなくなった。しかし、被験者のうち5人は携帯電話を使いながら何の問題もなく運転できた。そのうち2人は運転しながらの方が数学の問題をうまく解くことができた。

「スーパータスカーが存在するかもしれないということは、私にとっては目新しいものでない」と、ミシガン大学心理学部の教授で認知科学者のデイビッド・メイヤー氏は話す。同氏は今回の研究には参加していない。

 メイヤー氏の研究チームは、コンピューターが複数のプログラムを同時に実行できるのと同じように人間の脳も複数の情報を並行処理できるとする論文を1995年に発表している。研究チームはこの時、脳が複数の作業を効率的に行うことは絶対にできないとする主張を「信じがたい」と評した。

 また、研究チームが1990年代に行った研究では、一定の条件下で複数の作業を行っている場合と1つの作業を行っている場合とで反応の速さに違いがない被験者が存在したことが確認されている。

 今回の研究の共著者であるワトソン氏が次に研究したいと考えているのは、スーパータスカーがどのように思考しているのか、ほかにどのような作業をうまくこなせるのかということだ。同氏は現在、戦闘機のパイロットの脳を研究する計画を立てている。この研究は、複数の作業を同時にこなす非常に高い能力が求められる職業をスーパータスカーは自ら選択しているという仮説に基づいている。また、料理人、オーケストラの指揮者、テレビ局のプロデューサーも研究対象にしようと考えている。

 ただしワトソン氏もメイヤー氏も、携帯電話を使いながら車を運転することを正当化するために研究結果を利用しないよう警告している。そもそも、どの研究も研究室の中という単純化された条件下で行われており、実生活での車の運転に関わる問題を網羅したものではないとメイヤー氏は説明する。

「複数の作業を同時に行うことが難しいのか簡単なのか、どのような場合にそうなるのか、どの程度そうなのかは、実際に行う作業の種類と、その作業に取り組むための戦略によって変わる」。

 ワトソン氏も、自分をスーパータスカーだと“自己診断”して運転中に危険を冒すようなことは絶対にしてはならないと注意を促す。「多くの人が自分は例外だと思いたがるものだが、その考えが正しいことはまずない」。

 スーパータスカーの研究は「Psychonomic Bulletin and Review」誌に近日中に掲載される予定である。

Photograph by Pete Ryan, National Geographic Stock

文=Rachel Kaufman

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