ローマ近くの墓で発見された鉛製の棺、サルコファガス。

Photograph courtesy Jeffrey Becker
 イタリア、ローマの近くの廃墟で1700年前のサルコファガス(棺=ひつぎ)が発見された。納められている遺体は剣闘士かキリスト教聖職者の可能性があるという。この棺はローマ帝国時代の古代都市ガビィにあるセメントで封印された穴の中から発見されたが、鉛製である点が珍しい。ローマ時代の墓で鉛製の棺は数例しか知られていない。 ミシガン大学ガビイ・プロジェクトの責任者であるローマ考古学者ジェフリー・ベッカー氏は、「さらに珍しいのは、まるでメキシコ料理の“ブリトー”のように、362キロの鉛で遺体が包まれている点だ」と話す。鉛のサルコファガスは通常、古風なお菓子の缶のように長方形の形に成型されていて蓋が付いているという。

 棺は昨年から倉庫で保管されているが、詳しい調査を行うためローマのアメリカンアカデミー(AAR)に移される予定だ。

 だが、この遺体の人物を解明するのは難しい作業のようだ。墓に盗掘の形跡はないが、埋葬者の手掛かりとなる埋葬品が入っていなかった。また、棺の分析によく使われるX線検査やCTスキャンでは厚い鉛を透過できないため、他の方法で中の遺物を調べることになるが、それには危険が伴うという。

「過去の記録に一致する手掛かりがないので、心躍ると同時にストレスのかかる作業だ。この鉛の棺の秘密を解明すれば、何世紀も忘れ去られていた強大な文明について新たな知見がもたらされる可能性がある」とベッカー氏は話す。

 ガビイでは2009年に発掘調査が行われたが、中でもこのサルコファガスは同年で最も驚くべき発見だった。ベッカー氏とメンバーのニコラ・テレナート(Nicola Terrenato)氏は、実施中の本プロジェクトでナショナル ジオグラフィック協会の研究・探検委員会(CRE)から助成金を受けている。

 ローマからわずか18キロの地点にあるガビイは紀元前10世紀に建設され、勢力を拡大する隣国のローマ帝国と並んで数世紀にわたって繁栄した。ローマとは政治的な同盟関係を結んでいた。「ガビイの街中はローマ市街と似ていたかもしれない。人口が多いために混雑して騒がしく、日中でも煙でくすんでいて、全体的に住みにくい環境だったようだ」とベッカー氏は話す。

 だが、ガビイは西暦2~3世紀までに急激に縮小して、9世紀頃には滅亡した。「原因ははっきりしていないが、ローマの勢力拡大と領土的野心に飲み込まれたのではないか」とベッカー氏は推測する。

 発見された鉛の棺は、謎に包まれたガビイの歴史と相まって一段と興味深い存在となっている。

 当時、鉛は貴重な金属だったため、「鉛製のサルコファガスは、被埋葬者がある種の重要人物だったという証になる」とベッカー氏は言う。ヨーロッパで過去に発見された鉛の墓には、兵士やキリスト教会の有力者が埋葬されており、女性の剣闘士の場合もあった。

 今回の研究には関与していないロンドン博物館のローマ考古学担当上級学芸員ジェニー・ホール氏によると、事実、鉛の墓には男性ではなく高位の女性や若者の遺体が含まれている場合が多いという。

 イギリスのオックスフォード大学オールソウルズカレッジの古典考古学客員教授ブルース・ヒッチナー氏は、「暫定的ではあるが、今回のサルコファガスの年代から考えると剣闘士という可能性は低い」と話す。

 棺の年代は西暦4~5世紀にさかのぼるが、剣闘士の全盛期はそれより数世紀前だというのだ。同氏も今回の調査チームには参加していない。

 研究者にとって、鉛の棺の開封は危険を伴う作業になる。覆いを切り開く際に、がんの原因となる鉛のちりを吸い込む恐れがあると同時に、遺体がバクテリアと接触してたちまち損傷を受ける可能性もある。

 チームは移送先のアカデミーの施設で、サルコファガス調査の予備的な試験を行う予定だ。例えば、足側に穴を空けて小型の光ファイバーカメラを挿入する内視鏡的な接近方法などが想定されている。もし切削中の鉛のちりが十分に許容範囲内に収まると確認できれば、バクテリアなどが入り込まないクリーンルームで棺を開封する段階に進むことになるだろう。

 ベッカー氏は金属に包まれた棺の人物が歴史への新たな扉を開いてくれることを望んでいる。「歴史に興味がある者なら心躍るような機会が巡ってきた。1700年前の人物についてその生涯が解明される可能性があるのだ」とベッカー氏は語っている。

Photograph courtesy Jeffrey Becker

文=Christine Dell'Amore