齧歯類(げっしるい)は精巣研究の材料としてよく使われる。写真はその1種で、ハタネズミの仲間のオス。

Photograph by Joel Sartore, National Geographic Stock
 メス獲得競争の激しい哺乳動物の中には、ライバルに勝つためにオスの精巣が大きくなるよう進化した種があることが新たな研究で確認された。メスが多くのオスと交配する場合や、群れを率いる支配者のオスがハーレムを常に防衛しなければならない場合など、メスを巡る競争が激しい動物社会では、精巣の大きさが重要な決め手になるという。 ただし、メスが精巣の大きいオスを求めるというわけではない。競争はむしろ交配後、メスの体内で精子の競争として行われる。当然ながら、精巣の大きなオスほど多くの精子を生産でき、結果的に“コストを上回る利益”が得られる。

 一般にオスはライバルを蹴落とす手段を身につけるよう進化してきた。例えば、鳥類のオスによく見られる派手な羽や、求愛の際にメスにプレゼントを贈る行動などである。

 イギリスにあるブリストル大学の生物学者で研究を率いたカール・ソウルズバリー氏によると、精巣の大きさもそのような手段の1つで、同種の動物のうちで、体格、魅力、健康状態が最も優れたオスは精巣が最も重いという証拠も存在するという。これは、精巣の大きさとオスとしての魅力に何らかの関係性があることを示す。

 過去の研究では精巣の大きさと繁殖行動の関係に注目してきたが、行動に基づいた研究は信頼性が低いことがあるとソウルズバリー氏は指摘する。そこで同氏は、複数種の野生の哺乳動物について過去に公表されたデータを分析し、同じメスから生まれた子どもたちの父親が不特定多数のオスなのか、群れを営む種の場合は群れを率いる支配者のオスが唯一の父親なのかを突き止めるために遺伝子検査を行った。

 同氏はさらに、精巣の質量に関するデータや、交配期間などの因子を組み込んだ統計モデルを作成した。

 このモデルによって、「オス同士が激しく競争している場合、精巣の大きな個体ほど有利になるように自然淘汰が働いてきた」ことが明らかになったとソウルズバリー氏は説明する。「この結果自体は予想通りだが、広範な哺乳動物の遺伝子データによって証明されたのは今回が初めてだ」。

 この研究はヒトにもある程度当てはまるが、ヒトの生殖は事情がまったく異なる。「ヒトは複雑な生き物で研究が難しい。ヒトの繁殖行動には社会的側面が重要な要素として関わっているため、理解が難しくなっている」。

 しかし、遺伝子的にヒトに最も近いチンパンジーと比較した場合、ヒトの精巣は体の大きさの割に小さいとソウルズバリー氏は指摘する。

 ハーバード大学でオランウータンの生殖行動を研究するシェリル・ノット氏はその理由について、チンパンジーなどの霊長類はオスとメスが共同生活する“大所帯”で暮らすため、常にオスがメスを取り合う環境にあるからだろうと推測する。ヒトのオスの場合はそのようなメスの取り合いがないため、体の割に精巣が小さいままだという。

 この研究は2010年3月8日にオンラインジャーナル「PLoS ONE」誌に掲載された。

Photograph by Joel Sartore, National Geographic Stock

文=Christine Dell'Amore