レミングを脅かす温暖化、ノルウェー

2008.11.05
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毛皮に覆われた体で雪の中を跳ね回るレミング。北極圏に生息するこのネズミも地球温暖化の影響で個体数が減少しているという。2008年11月に発表された研究によって明らかになった。

Photograph by Paul Nicklen/NGS
 気候変動の影響でノルウェーのレミングの数が減少しているという。レミングをエサとする動物も食生活の変化を余儀なくされ、生態系全体の崩壊につながるとする研究が発表された。 スカンジナビア地方に広く生息するレミング(タビネズミ)は、3~5年周期で個体数が自然に急増する傾向を持つ。急増するとエサを求めて集団移住を始めることでもよく知られる齧歯(げっし)類だ。

 ときには新天地を求めて海や川に飛び込むこともあるので、集団自殺をするという、まことしやかな伝説まで生まれている。その増加ぶりはすさまじく、以前のノルウェーでは道で死んでいるレミングを片付けるために、除雪車が出動せざるを得ないほどだった。ところが近年、この現象がほとんど起こらなくなったことがスカンジナビア各地で報告されている。

 ノルウェーにあるオスロ大学のキレー・カウスルド教授らは、1970年からノルウェー南部におけるレミングの周期的な急増現象を分析してきた。この地域では1994年以降、爆発的な増加が起きていないことが分かっている。そこで、同地域の気候データと照らし合わせたところ、気温の上昇が関係している可能性が浮かび上がった。10年以上もレミングが急増していないのは地球温暖化のせいかもしれないという。今回の研究結果は、今週「Nature」誌に掲載される。

 レミングは冬になると雪の下に掘ったトンネルの中で暮らす。地表近くには地熱で暖められて雪が溶けている場所があり、そこからコケなどの食料を調達することができる。

 しかし、近年の温暖化はこうした雪原の構造を変えてしまった。同地域は冬になると氷点下が続くような気候だったが、最近では冬の間に何度も0度を上回る。そのたびに雪解けと再凍結が繰り返されるので、雪の下のトンネルにも水があふれ、その水がまた凍って地表に氷の層ができる。この状況がレミングに壊滅的な打撃を与えているのだ。巣穴が水浸しになって多くのレミングが溺死している。生き残ってもエサは氷の下なので、食べることができずに餓死するケースが多いという。

 データからは、個体数の急増が気温の低い冬に起こりやすいことも分かっている。レミングの繁殖しやすい環境が整ったときに数が急増するというメカニズムがうかがえる。ノルウェー南部の気温は1994年以降、上昇の一途をたどっているため、メスのレミングが一度に多くの子どもを育てられない状況が続いている。

 カウスルド教授らは、動物の個体数データなどに基づいて、レミングの減少が生態系に及ぼす影響をシミュレーションした。その結果、レミングを十分に捕食できなくなったホッキョクギツネやシロフクロウのような捕食動物は、ライチョウなど別のエサに頼らざるを得なくなり、地上に巣作りをする鳥類が食べられることが増えて危機に陥っていることが判明した。

 今回の研究はノルウェーの一部地域を対象としたものだが、このような影響は世界各地に現れると予想されている。研究チームメンバーのニルス・ステンセス氏は「スカンジナビア全域に限らず、カナダやアラスカなどでも同様の事態が起こる可能性がある」と語る。

 研究チームは気候の変動でレミングが全滅することはないだろうと考えているが、生態系に与える影響は甚大なものがあるという。カウスルド教授は、「捕食者と被食者、植物の関係性が変われば、生態系全体が変化してしまう」と懸念している。

Photograph by Paul Nicklen/NGS

文=Kate Ravilious

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