額の隆起部分を水面から出している現代のシャムワニ(資料写真)。

Photograph by Joel Sartore, National Geographic Stock
 パニック映画には人食いワニも登場するが、こちらはさしずめ原始時代版だ。体長6メートルほどのツノを持つワニが、突然水中から現れて初期人類を襲っては食べていた可能性があることが、化石の新たな研究でわかった。 今回新種として発表されたのは、ラテン語で“人食いワニ”を意味するクロコディルス・アンスロポファグス(Crocodylus anthropophagus)と名付けられたクロコダイル科のワニで、184万年前に生息していたとみられる。

 クロコディルス・アンスロポファグスの化石は、化石が多数発掘されることで有名なタンザニアのオルドバイ渓谷で2007年に発見された。この渓谷は、体の小さいホモ・ハビリスやアウストラロピテクス・ボイセイなどの、ヒト科(ホミニド)と呼ばれる初期人類が生息していた場所でもある。

 このワニの化石が発見される以前にも、オルドバイ渓谷ではワニの噛み跡がついたホミニドの骨の化石が見つかっている。今回の発見から、クロコディルス・アンスロポファグスは初期人類を食べていただけでなく、初期人類にとって最大の捕食動物であったと推察される。

 研究を率いたアイオワ大学の古生物学者クリストファー・ブロチュ氏は、今回の研究成果は、古代のアフリカに暮らした初期人類の生活の様子を理解する上で新たな視界を提示するものだという。

「初期人類(が暮らした時代の動物)といえばライオンやガゼルなどの哺乳類を考えがちで、爬虫類のことはほとんど話題にされない。しかし人類の祖先は巨大なワニと向き合う生活を強いられており、それは彼らの生活背景を語る上では欠かせない要素となっている。」

 クロコディルス・アンスロポファグスには恐ろしい三角形のツノがあるが、ツノのあるワニはそれほど珍しいわけではない。現在生息しているキューバワニ(学名:Crocodylus rhombifer)とシャムワニ(学名:Crocodylus siamensis)も耳の上の骨が隆起している」とブロチュ氏は言う。

「このツノは、縄張り争いで自らを誇示する際にオスを実際より大きくみせる効果がある」と、フロリダ州ゲインズビルにあるフロリダ大学でワニの生態を研究しているケント・ヴリート氏は語る。

 ツノのあるワニは縄張り争いをするとき、頭を前向きに水面につける。「すると、頭とツノと首がツノを頂点とするピラミッドの形になり、威嚇的効果を持つ。一部のシカもそうだが、体が大きいほどツノも大きい。最も体格の大きなオスが最も強力な威嚇効果を持つ。発見された新種の古代ワニのツノも縄張り争いでは同じ目的を果たしたようだ」とヴリート氏は語る。同氏は今回の研究には参加していない。

 この新種の古代ワニも、現在生息しているナイルワニ(学名:Crocodylus niloticus)と似たような外観で、水辺に不用意に近づいた獲物を待ち伏せするなど行動も似ていたようだ。今でもアフリカではそうしているように、初期人類が湖や河川から水を汲むときには足音を忍ばせ、細心の注意をはらって水辺に近づく必要があったはずだ。

「ワニには今でも十分注意する必要があるが、形勢は逆転した。ワニを絶滅に追いやるか、生息地を破壊するか、いずれにせよ今ではヒトがワニの最大の脅威になっている」とブロチュ氏は語った。

 今回の研究はオンラインジャーナル「PLoS ONE」誌に2010年2月24日に掲載された。

Photograph by Joel Sartore, National Geographic Stock

文=Christine Dell'Amore