市販された放射性飲料水タンクの恐怖

2010.01.15
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20世紀初頭に販売されていた放射性飲料水タンク「ラジウム鉱石リバイゲーター(Radium Ore Revigator)」。

Photograph courtesy Michael Epstein
 1900年代初頭、アメリカでは放射性物質を組み込んだ陶製の飲料水タンクが一般に販売されていた。健康のために良いという宣伝文句で、当時は爆発的に売れたようだ。 いまなら放射能の恐ろしさが理解できるだろう。しかし、最新の研究によると、問題はそれだけではなかったことが判明したという。 このタンクの商品名は「ラジウム鉱石リバイゲーター(Radium Ore Revigator)」で、製造元のリバイゲーター社は次のように宣伝していた。「飲み水をこのタンクの中に一晩入れておけば、新鮮な水が本来持っていた成分を復活することができます」。その成分というのが放射能だった。タンクの中で一晩寝かした水は、関節炎の治療から老化防止、胃腸内にたまったガスの排出まで何にでも効くとされていた。

 研究チームのリーダーでアメリカのメリーランド州エミッツバーグにあるマウント・セント・メアリーズ大学の分析化学者マイケル・エプスタイン氏は次のように話す。「現在の常識からすればとんでもない話だが、当時は信じる人が多かった。天然の湧き水には実際に放射性のラドンガスが含まれているからだ。それが安易に拡大解釈され、水を放射能にさらせば有機的な滋養強壮剤になるという発想に至ったわけだ」。20世紀初頭、リバイゲーターはアメリカ全土で数十万個売れたという。

「残念ながら、当時の人たちは間違っていた」とエプスタイン氏は話す。 1930年代に入ると科学が発展し、放射能曝露が体内細胞の破壊、そして癌(がん)の原因となることがわかってきた。

 ただし、エプスタイン氏の研究チームは、鉱石から出る放射能の直接的影響だけではなく、放射能による水質変化を通じてどれほどの危険がもたらされていたのかという点にも注目した。

 調査の結果、タンクの内側を覆うウラン鉱石から、ヒ素や鉛といった毒性物質が驚くほど大量に飲み水の中に放出されていたことが判明した。ヒ素も発癌性があり、鉛は神経系や泌尿器系、生殖器系に対して深刻な被害をもたらす物質である。

 エプスタイン氏の研究チームは、調査のために古美術店やネットオークションサイトeBayを通じて4器のリバイゲーターを購入した。陶製タンクは現在でも1900年代初頭と変わらぬ量の放射能を放出している。ウラン鉱石には高放射性の金属ラジウムが含まれており、そのラジウムは崩壊するとラドンガスになる。

 研究チームはまず、ガイガーカウンター(放射線量計測器)を用いて、タンクが放出するラドンガスの放射線量を測定した。そのレベルは一般人の平均曝露量を上回っていたが、死に至る危険性は比較的低いものであった。

 チームは次に質量分析計という非常に高精度の装置を用いて、ラドンが溶け込んだ水に含まれる毒性物質の濃度を分析した。その結果、「目覚めの1杯、寝間着で1杯、のどが渇けばリバイゲーター」という宣伝文句を鵜呑みにしていると、現在アメリカ環境保護庁(EPA)が健康を損なわない水準として勧告する放射能の曝露レベルを大幅に上回ることが判明した。

 例えば、EPAが規定するウラン曝露の最大レベルは0.030ppb(ppb=10億分の1)だが、ある容器は最大0.056ppbのウランを放出していた。また、ワインや果汁といった酸性の飲料をわずかでもタンクに加えた場合、EPAが勧告する最大摂取量の300倍以上のヒ素が検出された。

「リバイゲーターの購入者が平均より病気がちだったというデータは存在しない。20世紀初頭では、たくさんの病気がきちんと解明されておらず命を落とす人が大勢いたからだ」とエプスタイン氏は話す。

「リバイゲーターはある意味で教訓となる存在だ。現在、ネット上では通常の医薬品とは異なるさまざまな“健康商品”が販売されているが、中には危険が潜んでいると教えてくれる。世界は何も変わっていない。どの時代でも私たちは良い暮らしを目指して行動するが、時には間違った選択をしてしまう」。

 今回の研究成果は、「Applied Spectroscopy」誌の2009年12月号に掲載されている。

Photograph courtesy Michael Epstein

文=Christine Dell'Amore

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