現代的生活の起源はホモ・エレクトスか

2010.01.12
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イスラエルのゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡での発掘作業(撮影日不明)。

Photograph courtesy Gonen Sharon, Hebrew University of Jerusalem
 いわゆる現代人的行動が見られるようになるのは“現生”人類であるホモ・サピエンスが現れた中石器時代(およそ5万~30万年前)以降と長い間考えられていた。しかし、それより50万年ほど早く、濃い眉毛の突き出た毛深い人類の祖先ホモ・エレクトスがすでに現代的な生活を始めていたとする最新の研究が発表された。 イスラエル北部にあるゲシャー・ベノット・ヤーコブ遺跡で、社会的組織が形成され、コミュニケーションが行われ、また日常生活を営む場所と労働のための場所が区別されていたことを示す最古の証拠が発見された。これらはすべて現代人的行動の顕著な特徴と考えられている。

 この遺跡は75万年前の狩猟採集民の野営地で、ホモ・エレクトスなどの人類の祖先によって作られたと考えられる。現代人であるホモ・サピエンスが出現したのは25万年前にすぎないことが化石記録からわかっている。

 この遺跡では、握斧、両刃の礫器(チョッピングツール)、削器、ハンマー、突き錐といった人工物や、動物の骨、植物の残骸が、それぞれ別の場所に埋まっていた。

 イスラエルのスコーパス山にあるヘブライ大学考古学研究所の考古学者で、今回の発掘調査を率いたナーマ・ゴレンインバル氏は次のように話す。「木の実の加工や魚介類の調理などの作業が、この遺跡の異なる場所でそれぞれ行われていた。玄武岩の道具を加工する作業はいろりのそばで行われていたが、石英などを打ち砕いて先端の尖った道具を作る作業は遺跡内の離れた場所で行われており、そこでは大量の魚の歯も一緒に見つかっている」。

従来、現代人的行動の初期の痕跡を探す作業は中石器時代のホモ・サピエンスの遺跡を中心に行われてきた。こうした遺跡では、有力な証拠が過去にも発見されているためだ。

 今回の発見と他の遺跡や調査グループの研究成果から、ゲシャー・ベノット・ヤーコブでは分業が行われていたと考えられる。

 ゴレンインバル氏は、民族学的な類推や比較をもとに次のように推測する。その当時ゲシャー・ベノット・ヤーコブの野営地では、女性たちが木の実を採ったり、共用のいろりの近くで魚、カニ、カメなどの小さな生物を調理したりしている姿が見られたはずだ。

 また、男性たちは狩りに出かけたり、遺跡内の離れた場所で大昔に絶滅したゾウの一種など大きな獲物を解体したりしていただろう。玄武岩、石灰岩、石英などを使った道具作りも野営地のさまざまな場所で行われていただろうし、中には、現在も現地の主食である焼いた木の実や、魚を食べていた人もいただろう。

「われわれの調査で最も重要な点の一つは、人類が75万年以上前から魚を食べていたということだ」と同氏は説明する。今回の研究によれば、この野営地は古代には湖岸だった場所で、魚を食べていたことを示す最古の証拠がいくつか見つかっているという。例えばこの遺跡で見つかった骨は、既に絶滅した体長1メートルほどのコイがおもな食料だったことを示唆している。

 ハイファ大学の考古学者ダニ・ナデル氏は今回の発掘調査に参加していないが、現代人的行動が驚くほど早くから見られたことを今回の発見が示すとする見方に賛同する。「この遺跡では特定の場所が特定の作業に関係していること、つまり空間が組織化されていることを示すことに今回の研究は成功している」。

 また今回の発見は、考古学的記録から読み取れるこの地域の人類の発展過程によく当てはまるという。例えば、150万年前の遺跡であるイスラエルのウベイディヤでは、作ろうとする道具の種類に応じて材料が使い分けられていたことを示す考古学的証拠が見つかっている。単に近くにある岩を拾って石器作りに使ったのではないと同氏は強調する。

 その一方で、イスラエルのカルメル山やガリラヤ地域周辺にある、それぞれ10万年前、5万年前、2万3000年前の遺跡でも、初期の現代人的行動を示す証拠が見つかっている。

 ナデル氏によれば、死者の埋葬からコミュニティや住居の配置に至るまで、日常生活のあらゆる側面が連続的に発展してきたことをこれらの遺跡は示しているという。「われわれは現在、台所や居間や寝室を使っているが、それもすべて過去のどこかの時点で始まったことなのだ」。

 この研究は2009年12月18日発行の「Science」誌に掲載されている。

Photograph courtesy Gonen Sharon, Hebrew University of Jerusalem

文=Mati Milstein in Tel Aviv, Israel

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