研究チームのリーダーを務めたグリーンランド自然資源研究所のカールステン・エーバング氏は、「この鳥の生態についてはこれまでさまざまな仮説が提唱されてきたが、今回の研究によってその一端が初めて明らかになった」と話す。
キョクアジサシの寿命が30年を超えることを考慮すると、一生の間に移動する距離はおよそ240万キロに達するという。これは地球と月の間を3往復する距離に相当する。
これまでは追跡装置を使って移動経路を調査できるのは、体が比較的大きな鳥に限られていた。小型の鳥にでも装着できるような軽量かつ小型の装置がなかったからだ。
だが最近になって英国南極観測局(BAS)が、わずか1.4グラムほどの非常に軽量な追跡装置を開発した。エーバング氏の研究チームはこの装置をキョクアジサシの足に取り付け、その移動経路を追跡した。
まず同氏を驚かせたのは、この鳥が北大西洋の外洋に1カ月間も留まっていたことだった。熱帯地域を横断するのに備え、魚や小型の甲殻類などを捕食しながらエネルギーを蓄えていると推測される。
そして春になると再びグリーンランドへ移動を開始するが、南極から大西洋上を一直線に北上するわけではなく、緩やかに蛇行する経路をたどりながらアフリカや南アメリカを経由して北極圏に到達する。
一見すると非効率的な経路だが、相応の理由があるとエーバング氏は指摘する。「数千キロも遠回りしているが、分析してみるとまったく理にかなっていることがわかる」。 同氏によると、キョクアジサシの移動経路が蛇行しているのは、大きく渦を巻く大気の流れに巻き込まれないようにするためだという。
ただ、どのような経路をたどるにせよ、そもそもなぜキョクアジサシがこれほど長い距離を移動するのかはわかっていない。これについてエーバング氏は、「両極地域には餌が豊富にあるからではないか」と推測する。
今回の研究結果は「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に1月11日付で掲載されている。
Photograph and map courtesy Carsten Egevang