ちりでできた円盤がぎょしゃ座イプシロン星(左)を覆い隠す様子(想像図)。

Illustration by Brian Thieme and courtesy www.citizensky.org
 あまり注目されなかったが、元日の夜空では27年周期のぎょしゃ座イプシロンの皆既食が観測された。 1月1日、巨大な天体がぎょしゃ座イプシロンを覆い隠した。イプシロンは地球から約2000光年の距離にある黄色い超巨星だ。天文学者たちは過去の観測記録から、この星がまばゆい輝きを完全に取り戻すのは2011年前半と予測している。

 本来、イプシロンは非常に明るいため都市部でも肉眼で見ることができるが、謎の天体が27.1年ごとにこの星を覆い隠し、約18カ月にわたって夜空から姿を消す食変光星として知られている。

 イプシロンの周期的な食は1821年に初めて観測された。以来、長期にわたって姿を消す仕組みについて、天文学者たちは頭を悩ませてきた。

 5日、アメリカ天文学会がワシントンD.C.で記者会見を開き、カリフォルニア工科大学のドン・ホード氏が研究の成果を発表した。同氏はその席で、「スピッツァー宇宙望遠鏡の観測データから、2世紀近くに及ぶ謎の答えを導き出した」と発言した。

 ホード氏が提唱した新モデルによると、イプシロンは死を間近に控えた星で、その周囲を1つの星が回っている。この伴星は暗いちりでできた大きな円盤に囲まれているという。

 ホード氏の研究チームはスピッツァーの新たな観測データから、イプシロンの食がこれほど長く続くのは、暗い円盤の直径が約12億キロにも及ぶためだと考えている。これは地球から太陽までの距離の8倍にあたる。

 連星が食を引き起こすことは周知の事実だ。しかし、イプシロンの食は知られている中で最も長く続くため、ほかとは一線を画す。

 今回の18カ月にわたる食は2009年8月に始まった。ただし、円盤がイプシロンを完全に覆い隠したのは最近だ。「もし別の暗い星がイプシロンの前を通過するだけであれば、食はこれほど長く続かない」とホード氏は言う。

 1950年代、イプシロンの前を横切るものが何であれ、その天体は円盤に囲まれているという説が提唱された。

 スピッツァーの新しい観測データとともに、地上観測所や人工衛星の電磁波データを調べたところ、円盤の中央にある星はスペクトル分類のB型と示された。B型の星は青色で、その温度は太陽の3倍程度となる。

 当初、ホード氏らはこの結果を説明できなかった。ホード氏によると、イプシロンの質量がほかの似た超巨星と同等と仮定した場合、単体のB型の星の質量がイプシロンと連星になるほどの重力を生み出すとは考えられないという。

 そこで円盤モデルを成立させるには、「円盤内の星はB型の光度だが、その質量は理論上よりずっと大きい」と仮定した。ただし、円盤の中心がブラックホールだとすると質量面での説明はつくが、ブラックホールは円盤の物質を吸い込んで強力なX線やガンマ線を発するため、星の光度は観測データよりもより強くなるはずだ。

「行き詰まった我々は主星であるイプシロンの方に立ち戻った。イプシロンが大質量の超巨星ではなく、死にかけた質量の小さい星だとしたら? もしそうであれば、たとえサイズが大きくても、伴星にとてつもない質量は必要ない。この仮説から始めれば、すべてのつじつまが合う」とホード氏は説明した。

 ホード氏のモデルには疑問も残されているが、最新技術とアマチュア天文家の広範な協力があれば、今回の食が終わるまでに謎の答えが見つかるかもしれない。ホード氏をはじめとする専門家は期待を寄せている。

 アーン・ヘンデン氏が率いるアメリカ変光星観測者協会は“シチズン・スカイ(Citizen Sky)”というプロジェクトに協賛している。このプロジェクトでは、今回の食の一部始終を観測してもらうため、アマチュア天文家を訓練している。2009年9月にプロジェクトを立ち上げて以降、既に19カ国に及ぶ120人以上から観測データが集まっている。

「前回(1984年)の食から、技術は飛躍的に進歩した。アマチュア天文家は毎晩、詳しい情報を手に入れることができる」とヘンデン氏は話す。同氏によると、シチズン・スカイは一般市民を天文学の世界に引き込むだけではないという。「地上の光学望遠鏡を用いた伝統的な天文学がいまだ健在であることを証明している」。

Illustration by Brian Thieme and courtesy www.citizensky.org

文=Victoria Jaggard in Washington, D.C.