今回の最新研究は、常習化した中毒症状に照準を合わせている。研究チームの一員でアメリカにあるカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)で神経科学を専行する大学院生のアニタ・デビネニ(Anita Devineni)氏は次のように話す。「中毒症状のような薬物依存の根源にどのような遺伝子が働くのか解明できるように、今回はさまざまな条件の下で詳細な観察を行った」。
研究チームはハエに2種類の液状食を与えた。一方にはアルコールの一種のエタノールが含まれている。エサの選択に関しては何の制限も設けなかったが、1日に1度しか補充しなかった。
すると、ハエはアルコール入りのエサの方を好み、ますます欲しがるようになった。時間が経過するにつれてアルコール入りを選ぶ回数が増加していったのである。
中毒症状の程度を調査するため、研究チームは2つ目の実験として、アルコール入りのエサにショウジョウバエが嫌う化学物質を混入した。しかし、ハエはそれでも飲み続けた。
さらに、3日続けてアルコール分を抜いたエサを与えた。およそ1カ月間というハエの寿命を考えれば、相当な長期間といえる。
しかし、再びアルコール入りのエサが出た途端、ハエは酒飲みに戻り、禁酒以前と変わらない極端な水準で摂取し始めたのである。この行動は、禁酒後にアルコール依存症が再発した人間の症状と非常によく似ているという。
研究チームの一員でカリフォルニア大学サンフランシスコ校の生化学者ウルリキ・ヘバライン(Ulriki Heberlein)氏は、「再発時の行動は生物学的プロセスによって制御されていると考えられ、このプロセスはハエと人間の両者で共通している可能性がある」と話す。
研究チームは、再発の根源を成す遺伝子の特定を次の目標としている。こういった研究を通じて、アルコール依存症患者がアルコールを永久に断つための薬物療法の道が開ける可能性がある。
今回の研究は、12月10日発行の「Current Biology」誌に掲載されている。
Photograph by Bianca Lavies, NGS