21世紀最大の発見「恐竜の軟組織」をめぐる論争

2008.07.30
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2005年、ある研究チームが6800万年前のティラノサウルス・レックス(上のイメージ図)の骨から軟組織を発見したと発表した。

 2008年7月、別の研究チームが「“軟組織”は実際には血管の内部の表面を覆う粘液である」と発表した。

 今回の最新研究では、特に電子顕微鏡が活用されており、骨の血管壁のバイオフィルムがはがれている様子を明らかにした(図中右下の写真)。

Illustration by Doug Henderson/NGS; Photograph courtesy Thomas Kaye
 最新の研究発表によると、6800万年前のティラノサウルス・レックスの骨から発見された軟組織は、実は現代のバクテリアの粘液だったようだ。古生物学上、21世紀最大の発見とまでいわれた研究が否定されようとしている。 2005年、ノースカロライナ州立大学のメアリー・ヒグビー・シュバイツァー氏は、ティラノサウルス・レックスの骨の内部から化石化していない軟組織を発見したと「Science」誌に発表した。これは、恐竜の軟組織がそのまま残っていた初めての例である。しかし、シアトルにあるワシントン大学の古生物学者、トーマス・ケイ氏は「発見された“軟組織”は実際には骨の内部を覆う粘液で、それがかつて血管や細胞のあった空間を埋めているだけだ。これはバケツに雨水をためて1週間放置しておいた成分と同じ」と異論を唱えた。しかし、シュバイツァー氏率いる科学者チームは敗北を認める気はないという。

 ケイ氏が率いる研究チームは、恐竜や古代の海竜、マストドンなど15以上の化石標本の骨を調査し、いずれも共通して軟組織状の構造体を持っていることを発見した。しかし、電子顕微鏡を用いた詳細な検査を進めるうちに、この構造体がバクテリアの粘液であることが判明した。ケイ氏によると、バクテリアが骨に浸入する際、水と分泌粘液を伴うことで表面を覆い、血液などがなくなったあとの空間を埋めるのだという。

 また、この電子顕微鏡での検査により、きわめて小さい球体の存在も確認した。それは、シュバイツァー氏のチームが発見し、鉄分の存在から残留した血球と考えられていたものと同種だった。これをケイ氏の研究チームは、鉱物と鉄分でできたフランボイドと呼ばれる小さな球状粒子であると結論付けた。

 ケイ氏のチームは、シュバイツァー氏のチームと同様に、いくつかの骨を酸性の溶液に溶かす調査も行った。そして軟組織状の構造体が血管壁の表面を覆っていることを発見した。また放射性炭素年代測定法により、粘液サンプルの中には60年経っていないものもあることが判明し、この構造体は骨に付着したタンパク質ではなく現代の粘液と密接に関係するものであると判断したのだ。

 そしてまた、粘液膜の中に気泡もケイ氏の研究チームは発見した。これはメタン生成バクテリアが生み出したものと考えられる。また、骨の端から端まで続く道のような跡も発見した。おそらく、バクテリアが粘液の中を移動するときにできたものだという。「バクテリアは軟組織に比べてまったく興味を引かないものだ」とケイ氏は自分の発見について語る。「しかし、私たちは科学が導くところへと進まなければならない」。

 一方、シュバイツァー氏は、依然として自分の仮説を支持しており、ケイ氏の研究チームの調査法に対して再反論している。決着が付くのはまだまだ先のようだ。

Illustration by Doug Henderson/NGS; Photograph courtesy Thomas Kaye

文=John Roach

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