毎夜“ビール”を飲む酒好きの哺乳類

2008.07.29
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2008年7月に発表された研究によると、マレーシアに生息するハネオツパイ(上記の写真)は発酵したヤシの“ビール”を常習的に飲み、それがヤシの受粉を助けているという。

 ハネオツパイは原始の霊長類と近い関係にあるため、今回の発見から類推すると、人間のアルコール好きは、従来言われてきた約9000年前の醸造法の登場に始まったのではなく、もっと昔からのことなのかもしれない。

Photograph courtesy Annette Zitzmann
 最新の研究によると、自然発酵されたヤシの“ビール”を好む常習的な酒飲みの小型哺乳類がマレーシアに生息しているという。 この哺乳類はハネオツパイという種で、人間以外に飲酒行動を確認された初めての哺乳類だ。そして、ネズミほどの大きさのハネオツパイは、ジャングルで休みなく開催される大宴会の間、けして酔っぱらうことがないという。

 ハネオツパイは太古に誕生した哺乳類の祖先に似ていると考えられている。5500万年の間、彼らが宴会を続けてきたとすれば、私たち人間のアルコール好きは、従来言われてきた9000年前の醸造法の登場に始まったのではなく、もっと昔からのことなのかもしれない。研究チームの代表でドイツのバイロイト大学の生物学者フランク・ウィーンズ氏は、「ハネオツパイがアルコールを摂取する環境は、霊長類時代以前や霊長類時代初期に人類が進化してきた昔の状況と似ている可能性があり、人間のアルコール摂取とも関連があると思われる」と語る。

 ブルタムというヤシの一種は、数種の酵母種の力を借りて自然発酵した花のミツを作り出す。アルコール度数は3.8%で一般的なビールとほぼ同じである。ブルタムは一年中花を咲かせるため、この熱帯雨林バーはいつでも開いている。常連客であるハネオツパイは、ここで毎夜2時間ほど過ごし、ちびちびとミツを飲む。ほかの食事を取ることはないようで、どうやら花のミツが主食らしい。

 ウィーンズ氏の率いる研究チームは、ハネオツパイのアルコール摂取について調査するため、その体毛サンプルから、アルコールが体内で分解されるときに生成されるエチルグルクロニド(EtG)のレベルを検査した。その結果、ハネオツパイのアルコール摂取量は通常の哺乳類にとって危険なレベルであることが判明した。しかしハネオツパイは、人間よりも効率的にアルコールを代謝しているらしく、酔っぱらうことがない。

「この生態学的関係は何千万年もの間続いてきた安定的なものだから、そこには酩酊状態など存在しないのだろう。このような小さな動物が酩酊状態になったら捕食者に襲われる危険が増すだけだ」とウィーンズ氏は指摘する。「ただし、ハネオツパイが酔っぱらわないからといって、彼らの宴会がなんの影響も与えないとは限らない。酩酊状態には至らないとしても、アルコールはハネオツパイの脳や行動に対しなんらかの固有の作用があると私は考えている」とウィーンズ氏は語る。

 またウィーンズ氏は、5500万年間続く宴会はハネオツパイとヤシの双方に利点をもたらしているはずだと考えている。アルコールを通じてハネオツパイがヤシの受粉を手助けしているので、アルコール生成はヤシの繁殖にとって欠かせないと考えられる。「通常の花粉媒介関係のようにアルコールがこの生態学的関係にとって欠かせないとすれば、ハネオツパイにとってもなんらかの利点があるはずだ。ただし、どのような効果があるのかはまだ推測の域を出ない」とウィーンズ氏は話す。適度なアルコール摂取は心臓血管疾患の予防や食欲増進に効果があると指摘する専門家もおり、ハネオツパイに対してもそのような効果があるのかもしれない。

 ハネオツパイの飲酒習慣は、人間のアルコール摂取に関してまったく新しい光を投げかける可能性がある。9000年前に醸造法が登場するまで人間はアルコールを飲んでいなかったといわれるが、原始の霊長類に近いハネオツパイの行動からすると、人間の祖先も初期のころから常習的な酒飲みだったのかもしれない。

Photograph courtesy Annette Zitzmann

文=Brian Handwerk

  • このエントリーをはてなブックマークに追加