霊長類は脳を増大させながら進化してきた

2008.07.18
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南アメリカの霊長類Chilecebusを分析したところ、現在の“新世界ザル”に属する霊長類の祖先は小さな脳を持っていたという。今回の発見は、霊長類の生物学的な特質の1つである脳の増大が別々のグループで独立して起きたことを示唆している。

Photograph courtesy John Weinstein, the Field Museum
 アメリカに分布する現在の霊長類の祖先は、アフリカやユーラシアの霊長類の祖先と同じように小さいサイズの脳を持っていたことが新たな研究で判明した。 現在はどちらの地域の霊長類も体の大きさに比べて大きな脳を持っているので、今回の発見は、霊長類の生物学的な特質の1つである脳の増大が別々のグループで独立して起きたことを示唆している。

 今回の研究のメンバーでミシガン大学の進化生物学者であるジョン・フィナレリ氏は、「現在はどちらの地域の霊長類も大きな脳を持っているので、脳の大きさの変化は、アメリカに分布する“新世界ザル”のグループとアフリカやユーラシアに分布する“旧世界ザル”のグループの進化系統が分かれた後に起きたことになる」と話す。

 例えば、複数のグループでそれぞれ脳が増大していったと考えると、脳の大きさに関する遺伝子制御や、脳の増大が頭蓋骨の成長や形にどのように影響を与えたかなど、さまざまな疑問が提起されるという。

 体の大きさに比べて脳の大きさが増大することを「大脳化」という。大脳化指数(EQ)が高い動物は、グループの平均と比較した場合に体の大きさに対してより大きな脳を持っていることになる。

 これまで、大脳化は霊長類の進化過程で何度か起きてきたという推論はあったが、個々の変化が起きた時期を正確に特定するのは難しかった。今回の研究では、新世界ザルに属するオマキザルやマーモセットなど、現存する17匹のサルの頭蓋骨やアゴ、歯の大きさを80カ所測定して、体長の予測基準として最適な特徴を調べ、それをもとに、特定の化石の頭蓋骨やアゴ、歯のデータを入力すると体の大きさの推定値が得られるようなモデルを作成した。

 完成したモデルを「Chilecebus carrascoensis」と呼ばれる2000万年前の南アメリカの霊長類の化石の頭蓋骨に適用したところ、体重が約600グラム、EQはわずか1.11だったことが分かった。現存する霊長類のEQは1.39~2.44で、人間の場合はさらに高くなる。現在の哺乳類のEQ値の平均は1だ。今回の計算でChilecebusのEQ値は低いことが確認された。

 シカゴにあるフィールド自然史博物館の生物人類学の学芸員、ロバート・マーティン氏は、今回の研究は、イルカやクジラなどほかの哺乳類と同様に、霊長類も長い時を経て脳を大きく発達させてきたことを裏付けるものだと言う。「注意深く調べると同じ結論が導き出される場合が多い。つまり、脳は小さなサイズから始まってしだいに大きく発達していく。そして、ある系統ではほかの系統より早く脳が大きくなる。今回の研究は、脳の大きさが霊長類全般でしだいに大きく発達したこと示す好例だ」とマーティン氏は述べている。

Photograph courtesy John Weinstein, the Field Museum

文=John Roach

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