SOSを発する遺伝子操作トウモロコシ

2009.08.03
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ウエスタン・コーン・ルートワームの成虫。幼虫時にはトウモロコシの根を食い荒らす。

Photograph courtesy Tom Hlavaty, USDA Agricultural Research Service
 害虫に攻撃されると「SOS」を発信して危機を脱するトウモロコシが開発されたという。このトウモロコシは、遺伝子組み換えにより開発されたもので、天敵である甲虫類の幼虫に根をかじられると、周囲の土壌中に気体状の化学物質を放出するという。この化学物質に敏感に反応するのが、周囲の土壌に生息する寄生線虫である。寄生線虫は甲虫類の幼虫の体内に潜り込む習性を持っており、そのおかげで天敵はたちまち退治されるというわけだ。 このトウモロコシにはオレガノというシソ科の多年草の遺伝子が組み込まれており、そこから「SOS」信号を発する化学物質が合成される。研究チームのメンバーは、この遺伝子組み換えトウモロコシは、少量の殺虫剤で多収量を得ることも可能だと話す。

 トウモロコシの大敵として知られるウエスタン・コーン・ルートワームという甲虫は毎年、アメリカやヨーロッパの一部で甚大や被害をもたらしている。収穫の減損と駆除費用を合わせると、被害額は10億ドルを下らないと言われる。

 被害を食い止める研究を続けてきたのが、スイス、ヌーシャテル大学の動物学者テド・ターリングス氏らのチームである。ターリングス氏らは、遺伝子組み換えを行ったトウモロコシと天然のトウモロコシを同じ場所で栽培し、それぞれの根元にウエスタン・コーン・ルートワームの幼虫を大量に放した上で、その周囲の土壌内に線虫をばらまいた。

「遺伝子組み換えトウモロコシに線虫が集まり、3日後には多くのワームの幼虫が死んでいた」とターリングス氏は話す。遺伝子組み換えトウモロコシは、天然のトウモロコシに比べて根の損傷がはるかに少なく、成虫になったワームも60パーセントほど少なかったという。

 植物の中には、天敵から自分の身を守るため、他の生物と共生関係を結ぶものも多い。例えばアカシアの木にはアリが多く生息する。これらのアリは、アカシアから食糧と住処を与えられる代わりに、アカシアを脅かす草食動物や昆虫、植物を攻撃する。またトマトの中には、害虫に攻撃されると化学物質を放出して、その害虫の天敵である寄生ハチをおびき寄せる品種もあるという。

 ヨーロッパで栽培されているトウモロコシについても実験が行われたが、天然品種の中にも線虫をおびき寄せる化学物質を放出するものがあることがわかった。アメリカのトウモロコシは、病虫害への耐性を高めたり生育を促進するために行われる殺虫剤の散布や品種改良が原因で、徐々に本来の防御能力が失われたのではないかとターリングス氏らは考えている。遺伝子組み換えはさまざまな可能性を秘めているが、その1つとして、植物本来の能力を取り戻すことが注目されるかもしれない。

 ただし、本来備えていた能力であっても、それを人為的に取り戻すとなると、自然界に元々存在しなかった遺伝子を生み出す恐れもある。今回の研究は、遺伝子組み換えに反対する環境保護論者の間に、新たな波紋を投げかける可能性もある。

「環境保護論者は天敵で害虫を防ぐ“生物的防除”という考え方を支持しているが、われわれは遺伝子組み換えによってこのしくみが実現してしまった」とターリングス氏は話す。「いずれにせよ、遺伝子組み換えと生物的防除が両立することが実証されたことになるだろう」。

 この研究成果は、8月4日付けの「Proceedings of the National Academy of Sciences」誌に掲載される。

Photograph courtesy Tom Hlavaty, USDA Agricultural Research Service

文=Brian Handwerk

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